鉄道の安全対策と聞くと、すぐに思い浮かぶのは無事故で時間通りに運行されることだ。ところが、8月の小田急線刺傷事件、10月の京王線放火刺傷事件など、普段は思い浮かばない安全対策がにわかにクローズアップされる事件が相次いで起きた。ライターの小川裕夫氏が、乗客が乗る鉄道車内の治安対策について、東海道新幹線での取り組みを中心にレポートする。
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2021年8月6日に小田急線車内で起きた殺傷事件は、世間を大きく震撼させる大事件となった。
同事件は、藤沢駅を発車し新宿駅へと向けて走っていた快速急行の列車で発生。犯人は刃物を振るって乗客に怪我を負わせたほか、所持していたサラダ油を床に巻いて火をつけることも試みた。不幸中の幸いながら同事件で死者は出ず、火災も発生しなかった。
小田急線の事件の記憶が薄れる間もない10月31日、今度は京王線で類似の事件が発生した。同事件は京王八王子駅を発車して新宿駅へ向かって走っていた特急の列車内で起きている。京王線の犯人は調布駅から乗り込み、すぐ犯行に及んだ。ハロウィンの雰囲気に彩られた車内は、一転して惨劇の場と化した。
その後も小田急線・京王線を模倣する犯行が続いている。それだけに、鉄道事業者の治安対策は喫緊の課題として浮上している。
こうした事件で危機感を覚えるのは、鉄道事業者ばかりではない。鉄道は国民が日常的に利用する。国民の生命と財産を預かる政府が、無関係を決め込むわけにはいかない。
小田急線の事件が発生した直後、加藤勝信官房長官(当時)や赤羽一嘉国土交通大臣(当時)、棚橋泰文国家公安委員長(当時)は揃って声明を出し、再発防止に取り組むよう関係各所へと指示した。
鉄道車両は、過去に火災で多数の犠牲者を出した反省から不燃化が進められた。その成果もあり、簡単に火が燃え広がらないように改良されている。他方、火災への対策は手厚いが、刃物などによる無差別の犯行を防ぐ手段はない。