安全な移動手段と思われていた鉄道内で殺傷事件が相次ぎ、鉄道利用者の不安感がかつてないほど高まっている。2015年と2018年に東海道新幹線のぞみ号で死亡者が出る事件が起きたことから、今年7月、国土交通省の省令が改正され、鉄道事業者が独自に乗客の手荷物を検査できるようになった。
しかし日本の鉄道は過密ダイヤに加え、乗客数が極めて多く、すべての手荷物を検査するのは現実的でない。テロ対策に詳しい公共政策調査会研究センター長の板橋功さんはいう。
「それでも、鉄道会社が、『ご利用の皆さまの駅構内および車両内安全のため、手荷物検査をさせていただくことがあります』とアナウンスするだけでも効果はある。実行前に捕まりたくない犯人が計画を変更する可能性があります。その上で、時々抜き打ちの手荷物検査を行えば抑止力がさらに強化されます」
鉄道の安全に詳しい関西大学社会安全学部教授の安部誠治さんは、各鉄道会社が協力して、共通の「非常管理マニュアル」を作成することを提唱する。
「緊急通報ボタンの使い方や、非常用ドアコックに関する正しい情報など、車内で事件に巻き込まれた際に役立つ共通の危機対応マニュアルを作成すれば、乗客は事前に緊急時の対応を学べます。車両の違いなどがあり、各社を完全に一致させることは難しいですが、東京圏や大阪圏など地域ごとに可能な限り共通化させていくことが必要です」(安部さん)
技術の発展にも期待したい。総合危機管理アドバイザーのおりえさんはいう。
「すでにAIで不審者の行動を予測する防犯カメラが開発されていますが、さらに今後は、乗客の足を止めずにかばんの中に入ったナイフやガソリンを瞬時に識別するスキャナーなども登場するはず」(おりえさん)