厚労省人口動態調査(2021年)によると、2019年の浴槽内での溺死者は約4900人。約10年間で1.5倍ほどに増加しているという。また、主に冬季にこうした事故が多発しているとも指摘されている。入浴中に孤独死した場合は、遺体が凄惨な状態になることも多く、家族や発見者が心の傷を追うこともあるという。
多くの人を巻き込む浴室死。冬本番を迎えるなか、悲惨な浴室死を防ぐためにどうすればいいか。気をつけたいのが脱衣所や浴室の寒さ対策だ。
入浴と健康の関係を研究する東京都市大学人間科学部教授で医師の早坂信哉氏が語る。
「ヒートショックを防ぐためには、入浴前後の寒暖差を少なくすることが大切です。脱衣所にはヒーターを置き、湯張りした後は浴槽のフタを開けて室温を上げておきましょう。洗い場にシャワーで熱いお湯をかけておくのも有効です」
湯の温度も重要だ。前述した消費者庁が注意喚起する死亡例では、〈お湯はかなり熱い状態〉や〈追い炊きをした際に高温になり過ぎた〉といったケースが見られた。
高齢者入浴アドバイザー協会顧問で医師の植田理彦氏が解説する。
「最も安全なのはお湯が40度前後の状態です。風呂場死を防ぐ観点からも、入浴時は40度前後のお湯に10分ほど浸かるのが良いでしょう。もし熱めのお湯が好きな場合、最初は40度前後で入浴してから追い炊きをすれば、ヒートショックは起きにくくなります」
早坂氏によれば、「汗」もポイントだという。
「汗が出る段階で体温は0.5度ほど上がっているとされるので、“ちょこっとおでこに汗が出てきたな”と感じるタイミングで浴槽から出るべきです。体を温めようと汗をダラダラかきながら入り続けていると、体温が1度以上は上がって熱中症になりやすくなります。冬場にやりがちな長風呂は危険です。