米ソ宇宙開発競争が活発化した冷戦下の1950~1970年代、宇宙への旅は多くの人にとって憧れであり、“夢のまた夢”だった。しかし、それから半世紀が経った現在、宇宙ベンチャー企業の技術革新により「誰しもが宇宙に行ける時代」が訪れようとしている。宇宙の利用がすすむにつれ、新しい環境問題が浮上している。
宇宙空間で問題となるのが、軌道上に浮遊する宇宙ゴミ(デブリ)だ。使用済みの衛星やロケットの残骸、それらが衝突して生じる破片……。その数は10cm以上のもので3万6500個以上、小さなものを含めると100万程度に上るという。
デブリは秒速約7~8kmという高速で動いている。1cmほどの破片であっても、軌道上でぶつかれば衛星が粉々に破壊されてしまう。破壊されたデブリ同士が衝突し合うと、その数はさらに増えていく。将来的な宇宙旅行の安全を考える上でも、デブリは深刻な「宇宙の環境問題」なのだ。
デブリの除去サービスの事業化を目指し、今年3月から高度約550kmの軌道上で実証実験するのがアストロスケールだ。ゼネラルマネージャーの伊藤美樹氏は「これまでの宇宙は使い捨て文化でした」と言う。
「作っては打ち上げ、ミッションを終えればそれで終わりだった。しかし、今後、さらに多くの衛星が軌道に投入されるようになれば、持続可能な宇宙利用にとって、ゴミ回収サービスは不可欠。国際的なルール作りが必要になるでしょう」
同社は磁石によってデブリを回収し、大気圏に落として燃やす機能を持つ「ELSA-d」を開発。最初はロボットアームや網、粘着材、銛といった案も検討されたなか、磁石を利用する手法を採用したそうだ。
同社は将来的に、故障した衛星の回収や燃料補給による寿命延長など、総合的な「軌道上サービス」を展開する構想だという。
「衛星が周回する地球軌道は有限の資源です。宇宙旅行でも衛星の打ち上げでも、軌道上のどの場所が混雑しているのかという道路交通情報センターのような仕組みが必要になっていくはず。いわば高速道路のロードサービスのように、軌道の環境を支える企業になっていきたいと考えています」
取材・文/稲泉連
※週刊ポスト2021年12月17日号