京都大学硬式野球部に、変革が起きている。甲子園経験者など野球エリートが集う強豪私立大学を相手に互角の戦いを見せ、プロ注目選手も現われているのだ。3年生投手・水口創太(22)は公式戦で球速152キロを出し、来季のドラフト候補にも浮上している。
京大野球部で7年間監督を務め、今年11月に部の運営を統括する「総監督」に就任した青木孝守氏(67)は、「水口の登場は偶然ではない」と話す。
「2014年に田中英祐がプロに行ってから(ロッテがドラフト2位指名)、“野球部に入りたい”と言って入部してくれる子が増えました。それまでは高校まで野球をやっていた選手でも、身体の大きな選手が勧誘に熱心なアメフト部に取られてしまうなんてことはザラだった。もし田中がいなかったら、水口も今頃アメフトをやっていたかもしれない。部員数も昔は30人弱でしたが、今ではスタッフを含めれば4学年で100人以上いる。やはり田中の功績は偉大ですよ」
田中の引退後も、京大は2017年に年間5勝をマークし、2019年秋には関西学院大、同志社大から勝ち点を奪い、リーグ発足後初の4位を達成。
京大の躍進理由は大きくわけて3つある。1つ目は、その“自由過ぎる練習風景”だ。青木氏が語る。
「もともと勤勉な子たちなので、基本的に練習メニューの大半は自分たちで考えて組んでいる。ただ、みんな放っとくといつまでも練習するから、試合前日などは私から“もうやめなさい”と言います。夜通しマシンを打ち込んでいる選手もいましたから。集中力というか、没入力がすごい」
自主練習に重きを置くのは、京大生の「受験経験」からくる特徴も原因のひとつだという。
「私は大学受験塾の経営に携わっているので、京大合格者が勉強面でどう指導されてきたかはわかります。受験では得意科目より不得意科目の点数の方が伸び幅が大きいので、不得意科目をなくすように、“オール8”を目指すように勉強するのがセオリーです。
しかし、野球に関してはその逆をしないといけない。私学の選手とは積み重ねてきた練習時間が違うので、京大生はそこを補うために、1つの強みで一点突破する必要がある。ファウルを打つのがうまいとか、足が速いとか、そういうひとつの技術だけを突き詰める“オタク”になれる選手が試合で活躍できる。野球は1科目だけ10、あとは1でいいんです。
だから全員が同じことをやる全体練習は、最低限の量にとどめている。普段から口酸っぱく“短所を埋めようとするな”長所を伸ばせ〟と言っています」(青木氏)