役者の魅力は作品の質によっていくらでも変化しうるものだ。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。
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2021年の秋ドラマもいよいよクライマックスへ。前評判に比べて今ひとつインパクトに乏しかった作品もあれば、ドラマの雰囲気は超真面目なのにツっコミどころ満載で視聴率は絶好調、予想外にウケてしまった作品も。例えば12日に最終回を迎える『日本沈没―希望のひと―』(日曜21時 TBS系)。ネットには視聴者からのツっコミが目立ち、「嘘っぽい」「陳腐」「なぜ今、日本沈没のドラマ化なのか意図が解りかねる」などと根本的なことまで愚痴りながらも、最終話まで見続ける視聴者がたくさんいて興味深い。
その反対に、世の中的には話題作とは言えないけれど、個人的には最高点を差し上げたいドラマもあります。既成概念をぶっ壊す力が絶大で、クスッと笑えて爽快で、しみじみ心に沁みる。ドラマっていいなあ、若さとは可能性そのものなのだ、と素直に納得できるオリジナル学園ドラマが『顔だけ先生』(土曜23時40分 東海テレビ・フジ系)です。一言で説明すれば「破天荒な教師が問題を解決していく」定番の学園モノ。しかしこれが一筋縄ではいかない、複雑な味わいのある秀作に仕上がっています。
タイトルの『顔だけ先生』とは、自分至上主義で非常識ながらルックスだけは抜群、教師らしいことは一切しない先生のこと。その遠藤先生を演じているのが「目ヂカラ世界遺産」、「国宝級イケメン」(「ViVi国宝級NEXTイケメランキング」2019)と評される神尾楓珠さんというのがまず面白い。
最初から国宝級のイケメンを「顔だけ」と言い放ち、ふっきれている。イケメン=モテる、チヤホヤされる、恋愛話……といった連想を断ち、顔以外には全く評価を受けない存在が教師になる、というパラドックスを展開していきます。遠藤先生は超マイペースで数々の非常識きわまりない行動をやらかしていくけれど、実は本質的なところを突いていて、それが高校生の心に届き生きる力になっていく、という物語の構造です。
さて、神尾さんのルックスですが、たしかに見れば見るほど整っていて国宝級のイケメンぶりを実感させられますが、遠藤先生のキャラクターは破壊的です。「これって普通だと思いますよ」とか言いながら、常識を軽々と超えていく風変わりな人の魅力を引き立たせているのが、神尾さんの徹底した役作りです。
神尾さんは遠藤先生について「セリフの中で核心をつくことがあるが、さらっと言っているように意識している。深いことを言っている、それを出さないのが遠藤という人」とコメント。飄々と常に爽やかな笑みを見せながら自由で勝手な振る舞いを連発し、どこまでも振り切れた人物を気持ちよく表現できているあたり、役者としての力を感じます。
教師そのものが「常識」という枠組みを淡々と越えていくから、このドラマは説教臭くないしお涙頂戴的でもない。同僚の教師・亀高先生を演じる貫地谷しほり、教頭役・八嶋智人ら周囲を固めるキャストたちも非常にノリが良くパロディとギャグの応酬で笑わされる。しかし扱うテーマは決して軽くなく、ひきこもり、モンスターペアレント、ゲイの告白、外見差別…と社会問題から逃げない。一見すると学園コメディ、実は映像も演出もクリエィティブ、ふと気付けば泣かされる深みがあります。