青子もまた短い生を主に保育器の中で送った娘〈なぎさ〉に思う。〈あの子に―なぎさに触れた時間は、気が狂いそうなほど苦しくて、でも素晴らしかった。命が一つ、目の前で熱を放っていた。忘れていないし、きっともう死ぬまで忘れない〉
が、その確かな熱と共に生きようとする彼女に母は再婚を勧め、現実を見ろと言う。〈青子が見つけたどんな真実も、幼稚な妄想として拒まれる〉〈新しい星で、青子はやはり一人だった〉
「でもこれは青子がこの時、生存するために選んだ戦略で、それが家族とは合わなかっただけ。どっちが正しいとかではないんです。たぶん人間関係に限らず、その時は折り合えなくても、自分を閉ざさず、循環させた状態で生活していれば、大事な何かに出会えるって、私自身が思いたいんですね。救いはどんな孤独な場所にもある。ただそれも、生きていればこそ、なんです」
そうした状況を、青子と茅乃はよく車で出かけては報告し合った。観光施設では手術の跡を気にする茅乃が銭湯には入れることや、1人娘〈菜緒〉の前で泣けずにいることも聞いた。
それが4人なら尚更だ。上司に苛められ、失意の底にいた玄也も、自分をゲンゲンと呼ぶ3人とは会え、コロナ下にはズーム飲み会も開催。寝落ちした卓馬を、青子が新しく始めた翻訳の仕事の傍ら見守り、30男の自慰の悩みを聞かされる場面など、思わぬ時に思わぬ角度から飛んでくるのが救いらしい。
誰も可哀想なんかじゃ全然ない
〈あるものとないものは似ている〉〈「ある」ものは、常に数パーセントの「ない」を存在の内に含んでいる〉等々、本書では有無、男女、強弱といった対立的概念が境なく交じり合い、包括的に語り直されるのがいい。
「このモヤモヤは何なのか、自分でも考えながら言葉に落とし込んでいくんですね。もちろん4人は4人なりの答えをそれぞれ探すしかなく、その答えは場面場面で変わっていい。一致させる必要なんか全然ないのになって、しみじみ思います」