【著者インタビュー】彩瀬まる氏/『新しい星』/文藝春秋/1650円
第1話の語り手は、娘を生後2か月で亡くし、子煩悩で優しい夫とも離婚した、29歳の塾講師〈森崎青子〉。今なお掌に娘の体温を感じ、実家を出た彼女の、〈私は、失ったのではなく、得たのではないか〉という発見から、彩瀬まる氏の最新連作集『新しい星』は始まる。
「そんな時、自分の状況をフラットにぶつけて共有できる空間が大人にこそあってほしいのに、実際はどんどん難しくなる感じがして。青子でいえばその空間は大学の合気道部の同期で、女2男2の、誰かの結婚式で再会したくらいの関係が、ちょうどよかったんです」(彩瀬まる氏、以下同)
つまり本作の登場人物である青子、〈茅乃〉、〈卓馬〉、〈玄也〉の4人組である。茅乃と卓馬は既婚者で青子はバツイチ。玄也は独身で実は引きこもりという状況の中、茅乃が乳癌になり、青子の発案で元恩師の道場に4人で通うことに。その間にも第2子の出産で帰省した卓馬の妻はコロナで戻れなくなり、少しずつ働き始めた玄也には友人ができたりと、10年余の出来事が交互に語られてゆく。
表題はごく平凡な日常にも訪れ得る理不尽な変化のこと。その容赦のない星に振り回されてはしがみつく、これは誰の物語でもある。
「以前『くちなし』という短編集に、『茄子とゴーヤ』という、私にしては実験的な作品を書いたんです。特に奇想に走るでもなく、夫を事故で亡くした主婦が床屋のおじさんにゴーヤをもらうだけの話が意外にも好評で、普通の人の現実を訥々と書くことの面白さが、本書の第1話に繋がった。
それも女の1対1よりは、この話は彼とはできるけど、彼女には無理とか、角度がほしかったのと、新領域に挑む以上、ベースは身近なもので固めたくて、4人を合気道部にしたんですね。いちおう私も元合気道部の2段、黒帯保有者なもので」
昔も今も恋愛感情抜きな4人の関係や、小柄な茅乃でも男子を制圧し得る合気道など、設定が絶妙なのだ。
「相手の動きを利用するのが合気道の基本。肉体的な接触も多いので、愛着というとヘンですけど、私は当時の仲間のことを、手首の感触や技のかけ方で憶えていたりするんですね。仮に誰かが亡くなったとしたら、あの握り具合の子はいないんだって、身体的な喪失感を覚えると思う」