だんじり祭で知られる大阪・岸和田の街の中心部から車でわずか10分。11月中旬、夜も明け切らない午前5時半の地蔵浜から、3艘1組の漁船が白波を立てて滑り出していく。先頭の船(手船)がソナーや魚群探知機で探すのは“海の宝石”シラスだ。
「大阪湾は魚の宝庫やのに、あんまり海産物のイメージ、ないでしょ?」
揺れる甲板で、岡修さんが笑った。組合長を務める大阪府鰮巾着網漁協(JF大阪府鰮巾着網)は、大阪府全体の漁獲量の6割以上、約1万5000tを水揚げする府下最大の漁協だ。しかし、たしかに「大阪産の魚」というフレーズには馴染みがない。
「それは私たちが長いこと、府外の加工・販売の業者さんたちと、『相対取引』をしとったから。大阪湾のシラスやイカナゴが加工され、『兵庫産』や『和歌山産』の表示で各地の店頭に並んどったんです」
2014年、JF大阪府鰮巾着網はこれまでの相対取引をやめて「入札制」を導入。これが「大阪のシラス」の快進撃の始まりだった。当初、入札に参加した漁業者は、大阪府全68統(統は船団の単位を指す)のうち26統だけだったが、翌年には45統、現在では全68統が参加し、シラスの平均単価を1.7倍まで伸ばすことに成功した。いまや「大阪のシラス」は押しも押されもせぬブランドだ。