12月14日の衆院予算委員会で、新型コロナ対策として政府が調達した「アベノマスク」が大量に残ってしまっている問題を野党から追及された岸田文雄・首相は、“反省の弁”を口にしなくてはならない状況に追い込まれた。ただ、野党の追及に対して岸田首相が“聞く力”を見せたことには、当時対策を主導した安倍晋三・元首相との間に距離が生まれていることと関係があるとみる声も出ている。
政府が新型コロナ対策として調達したマスクの在庫は約8000万枚にものぼり、今年3月末までの保管費が約6億円もかかっていることなどが、会計検査院からも「無駄遣い」と指摘されてきた。予算委員会でこの問題を問われた岸田首相は、「検証、反省すべき点があったことは、しっかり受け止めなければならない」と述べた。
今なお巨額の保管費がかかっている以上、当然の受け止めとも言えるが、アベノマスクについての政権トップの答弁としては、大きな“方針転換”にも見える。昨年4月の通常国会の予算委員会で、野党から布マスク配布を厳しく批判された当時の安倍首相は、「(マスクが)値崩れを起こす効果になっていると評価する人もいる」「息苦しいという発言があったが、私はずっとしているが息苦しくない。意図的に貶めるような発言はやめていただきたい」などと色をなして反論していた。
今回の答弁について、「岸田首相が率直にアベノマスクについて“反省の弁”を述べたのは、安倍元首相との距離が空いていることとも関係があるのでは」(自民党関係者)という読み解きもある。
「新政権発足時に安倍氏は高市早苗氏を幹事長に推したとされるが、岸田首相は甘利明氏を起用し、衆院選後は茂木敏充氏を抜擢した。官邸では、一億総活躍推進室などの安倍官邸時代から続いていた組織を解消。また、外相人事では安倍氏と同じ山口県選出で、将来的な合区の際に選挙区を奪い合う可能性がある林芳正氏を起用してみせた。衆院選後に安倍氏は、自民党最大派閥の清和会のトップに就任したが、岸田首相は麻生派の領袖である麻生太郎・副総裁や竹下派から衣替えした茂木派のトップとなった茂木氏との連携を深めているように見える」(前出・自民党関係者)
安倍政権時に問題となった総理主催の「桜を見る会」についても、予算委員会で岸田首相は「私の内閣において開催することは考えてはおりません」と答弁した。様々なポイントが指摘されるのは、それだけ岸田氏と安倍氏のすきま風を懸念する声が多いということだろう。野党との国会論戦の裏で、自民党内の不満も滞留していく可能性があるのだろうか。