臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、大量に余った在庫を配布する方針が明らかになった「アベノマスク」について。
* * *
「アベノマスク」の在庫が、希望する自治体や個人に配布されることになったようだ。松野博一官房長官が12月15日、記者会見でその方針を明らかにした。前日の14日には、岸田文雄首相が国会で「検証、反省すべき点があっことはしっかり受け止めなければならない」と述べていた。在庫保管費をめぐり日増しに批判が高まっていただけに、「特技」とアピールしていた「聞く力」が発揮されたのだろう。“反省”という言葉を口にした岸田首相だ。
だが、具体的な解決策については「まずは有効活用の道を探りたい」と説明し、言及しなかった。これまでにも安倍・菅政権が残した負の遺産といわれる問題には“検討”という言葉でスルリとかわし、聞く力を疑問視されることもあった岸田首相。明言を避けた裏には、もしかすると「省略バイアス」が潜んでいるのかもしれない。
振り返れば、安倍政権下で全戸配布を発表してから、ずっと批判続きだったアベノマスク。なぜ、不織布マスクより感染予防効果が低い布マスクなのか?から始まり、配布されればサイズは小さく使いづらく、異物混入の発覚まであり、一律配布していた介護施設からも必要ないと言われる始末。マスク不足の最中にあっても、私自身が付けたことはないし、周りで使っていたのもわずか1人。それも「話のネタになるから」と付けていたに過ぎなかった。
すっかりその存在を忘れていたが、子育て世帯への10万円の給付に際し、2回目をクーポンで給付する場合にかかる経費900億円に批判が殺到したことで、そういえばアベノマスクも無駄だった、と思い出した。アベノマスクに投じられた税金は約500億円。残る在庫は約8300万枚で、約115億円に相当するという。その保管にかかる費用も、昨年8月から今年3月までの8か月で6億円だ。今年4月以降の保管料を加えると、おそらく10億円近くになるのではないだろうか。不良在庫の山に加え、莫大な保管料となれば、国民の1人として「政府は何をやっているのか」と言いたくもなる。