1987年の騎手デビューから34年間にわたり国内外で活躍した名手・蛯名正義氏が、2022年3月に52歳の新人調教師として再スタートする。蛯名氏による週刊ポスト連載『エビジョー厩舎』から、日本の馬として最初の国際GI競争優勝馬であるトウカイテイオーの強さについてお届けする。
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デビューして3年目、初めてGIに騎乗させてもらいました。平成元(1989)年の皐月賞。自厩舎のリアルビクトリというリアルシャダイ産駒で、オーナーの吉野文雄さんはエフティマイアなどの馬主である吉野英子さんのお父様。2代続けてお世話になったというわけです。この年はオークスと、暮れの朝日杯3歳(現2歳)ステークスにも騎乗しましたが、どれも二桁着順でした。
2年後の皐月賞には矢野照正厩舎のシャコーグレイドで出走します。
このレースはあのシンボリルドルフの産駒でここまで4戦4勝というトウカイテイオーが人気の中心。シャコーグレイドは抽選でやっと出られるような馬だったので、急遽頼まれました。
道中は後ろの方で我慢していましたが、3コーナーにさしかかったところで追い出すとぐっとスピードが乗って4コーナーで外に出てさらに加速。
完璧に回れたと思いました。
直線を向いたときにこれは勝てるかな、とほんの一瞬(本当にほんの一瞬です)思ったんですけれど、前にいたトウカイテイオーを見たらまだ全然追ってない(笑)。手ごたえもまるで違ったので無理だと思いました。それでも18頭立て16番人気での2着。当時は枠連しか発売していませんでしたが、5440円もつきましたよ。レースを見ていて「エビナって誰だ?」と思われた方も多いのではないでしょうか。
シャコーグレイドが頑張ってくれたおかげで、初めてのダービーにも乗れることになりました。この日のことは、とてもよく覚えています。ベテランでも緊張すると聞いていたのですが、僕は嬉しくて嬉しくてしょうがなかった。パドックで跨って、地下馬道から出ていくまでずっとニコニコしていたみたいです。
今だから言えますけど、皐月賞の後、手を脱臼したんです。ダービーに乗りたいから誰にも言わないでテーピングしながら乗ってました(笑)。