生まれたときからすでにインターネットがあり、主なコミュニケーションツールはSNS、生活の中心にはデジタル技術が存在している……1990年代の半ばから2012年頃に生まれた「Z世代」についての説明だが、上の世代からは独特に感じられる“言語感覚”もその特徴のひとつのようだ。これまでは職場の上司を褒める場合に、「頼りになる」「かっこいい」といったフレーズが使われることが多かったが、Z世代では上司に対して「かわいい」という褒め言葉を使うことが少なくないのだという。
保険会社勤務の20代の女性がこう話す。
「私が好きなアニメの話をしたとき、『アニメはあんまり観ないからなぁ』ってピンときていない様子だった上司が、翌日にそのアニメを観て感想を言ってくれたんです。『登場人物の名前がややこしくて覚えられない(笑)』と言いつつも、『今はああいうのが流行っているんだね~。知っておかないとな~』と。その話を同期飲みでシェアしたら『え、その上司かわいい!』と盛り上がりました。『かわいい』は私としてはかなりランクの高い褒め言葉で、『かっこいい』とか『頼りになる』とかより断然、『かわいい』上司がいいと思います」
ちなみに、「かわいい」を辞書で引くと〈小さいもの、弱いものなどに心引かれる気持ちをいだくさま〉〈ほかと比べて小さいさま〉〈無邪気で、憎めない。すれてなく、子供っぽい〉(デジタル大辞泉より)といった説明が並んでいるが、どれもこの20代女性が「かわいい」というフレーズを使う際の含意とは違っていそうだ。
若者の消費・メディア行動研究やマーケティングを専門にする信州大学特任教授の原田曜平氏は、Z世代が上司に向ける「かわいい」には、次のような意味があると話す。
「上下関係を感じさせない、居心地のよさを意味していると考えられます。ヒエラルキーがある関係ではなく、フラットな“お友達関係”を築いてくれる上司に対して、Z世代は親しみを込めて『かわいい』と言うのです」