鮮烈な印象を残すのは常に主役であるとは限らない。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。
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高い満足度を獲得している秋ドラマ『最愛』(TBS系 金曜午後10時)もいよいよ最終回。正直、ドラマの前半は展開が複雑で話についていくのがやっとでした。時空間が飛びまくり過去と現在が交錯し、そのわりに意図的なのか説明が少ない。記憶喪失という飛び道具に複数の事件も絡み、「犯人は誰か」という謎解きだけでなく企業スキャンダルに週刊誌のスクープと話題はてんこ盛り。
それでもドラマを追いかけ続けることができたのは、ある人の牽引力のおかげです。宮崎大輝を演じている松下洸平さんの存在は大きかった。混沌とした物語の中で唯一、大ちゃんはピンと張ったまっすぐな1本の糸のように視聴者を導いてくれました。
製薬会社・真田ウェルネス代表取締役、真田梨央(吉高由里子)と、若い時心を通わせあった宮崎大輝。しかし15年ぶりに再会した時は、かたや連続殺人事件の重要参考人、かたや警視庁刑事部捜査一課の刑事。二人は「追われる者と追う者」という悲劇的な関係に。
心を鬼にして事件を追求しなくてはならない大輝。しかし梨央に会えば会うほどさらに深く惹かれていく。切なく思い詰めた大輝の表情に、宇多田ヒカルの主題歌『君に夢中』のメロディが被さる。あまりにもピタリとはまっている松下洸平という役者。その表情に、思わず見とれて心を振るわせた視聴者も多かったはずです。
何がそうさせているのかといえば、やはり良い意味での「普通感」でしょう。ふと見ればそこに歩いていそうな一重まぶたのしょう油顔。白いワイシャツ姿、飛騨弁で語る木訥さ。純なA型風生真面目さと漂う孤独感。過去に恋した女に今また惹かれて自分が制御できなくなる。過去と現在の両方を追いかける大輝のとまどい、そして耐える姿に男の色気も漂う。