【著者インタビュー】まさきとしか氏/『彼女が最後に見たものは』/小学館文庫/858円
クリスマスイブの夜、新宿区の空きビルで頭部を殴られ、着衣の乱れた状態で発見された身元不明の遺体。後に〈高田馬場二丁目女性殺人事件〉と名付けられるこの50代女性ホームレスの謎の死から、まさきとしか氏の最新刊『彼女が最後に見たものは』は幕を開ける。
探偵役は、現在24万部を突破中の第1弾『あの日、君は何をした』に引き続き、警視庁捜査1課の刑事〈三ツ矢秀平〉と、よくも悪くも非凡な彼の逆をゆく戸塚署の若手刑事〈田所岳斗〉の凸凹コンビ。そしてこの遺体の指紋が前年夏、千葉市在住の公務員〈東山義春〉が刺殺された未解決事件の遺留指紋と一致したことで、事態は思わぬ方向に転がり始めるのである。
岳斗たちは2つの事件の関係性を探るべく、改めて東山の妻〈里沙〉に事情を訊くが、遺体の女性に心当たりはないという。夫を殺した犯人が逮捕されていないことに不安を感じる様子の里沙だが、三ツ矢が着目したのは東山宅の出窓に飾られている〈フラワーアレンジメント〉だった。
「本作は着想というよりは、“川原で行き倒れている女性”というイメージが漠然とあって……。そう聞くと皆さん、『可哀想に』って言うんですけど、彼女の人生が可哀想なものだったかどうかは彼女にしか判断できないのにねっていう話を、実は前作を書く前に担当の編集者さんにしたんです。
ただその時はどう物語化すればいいかわからなくて、『あの日、君は何をした』を書いたんです。その後、『あの話、やっぱり私も読みたいです』と編集者さんが言って下さって。ところが戸塚署管轄内にイメージする川原はありそうにない。となると岳斗の出番がなくなってしまうとか、諸々あって今の形になりました。幸い三ツ矢&岳斗コンビは読者の方にも好評で、彼らありきの第2弾でしたので」(まさきとしか氏、以下同)
中2の時、母を殺された上に犯人と思われた男は自殺。そのせいか〈わかりません〉〈だから、知りたいのです〉が口癖で〈瞬間記憶〉の持ち主でもある三ツ矢。岳斗は彼と3か月ぶりに再会した際、冗談で所属や年齢を律儀に並べた挨拶をするが真顔で返され、思わずこう問うてしまう。〈三ツ矢さん、俺のこと覚えてます?〉
「三ツ矢は岳斗のヘタな冗談を全スルーしてしまう変わり者ですからね(笑)。彼の造形に関しては、たまには女性に嫌われない男性も書いてみたかったのと、自分の知りたいという欲求にまっすぐ静かに向き合える人なら、誰も気づかないことに気づける気がして。特に幼くして心が殺されるような経験をした人は、世の中や他人に向ける目も違ってくると思うんです。
それこそ誰もがわかったつもりになれちゃう時代に、一々立ち止まり、わからないと言えるのが三ツ矢なら、〈まどろっこしい言い方はやめてはっきり言ってくださいよ〉と一々つっかかり、説明を求めることができるのが岳斗。そうした書き分けも書きながら固まっていったもので、まさかこの人がこんなことを? とか、書きながら登場人物に教わることも多かったです」