新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着いてきたことで、これまで控えてきた健康診断や検査を受ける人が増えているが、検査結果が出たとき、目の前の数値にあまりこだわりすぎるのも良くない。また、検査には数値以外にも落とし穴がある。受けるだけで体に多大な負担がかかるケースがあるのだ。
大腸がんの有無を調べる大腸内視鏡検査がそのひとつ。医療経済ジャーナリストの室井一辰氏が語る。
「大腸内視鏡は肛門からカメラを挿入し検査を行ないますが、肛門からの挿入は技術が必要で、担当医の腕によっては検査時に腸に穴を開けてしまったり、腸壁を傷つけて出血させてしまうリスクが伴います。
米国消化器学会では、大腸がんの家族歴がなく、一度大腸内視鏡検査を受けて問題がなかった人は、その後10年は検査は不要としています」
厚労省の「『がん検診のあり方に関する検討会』における議論の中間整理」(令和元年度版)では、大腸内視鏡検査の偶発症(検査時に偶然起きた不都合な症状)リスクについて、米国の研究を引用しつつ、年齢、併存疾病の状態、ポリープ切除、抗凝固剤との関係を指摘。〈年齢を踏まえたがん検診の不利益について考慮する必要があると考えられる〉としている。
新潟大学医学部名誉教授の岡田正彦医師(内科医)は、とくに体力のない高齢者は要注意だと語る。
「内視鏡検査は前日から絶食したり、大量の水や下剤を飲んで腸のなかを空っぽにしておく必要があります。体に大きな負担がかかるため、ご年配の方は体力低下を招きやすい。強くがんが疑われる人以外は受けるべきではない検査だと思います」
米国がん協会も、大腸ポリープやがんが見つかったことがない人の場合、大腸内視鏡検査が推奨されるのは75歳までで、85歳以上は「検査を受けるべきではない」としている。
人間ドックやがん検診などで導入されているPET-CT検査も、体への負担は大きい。
「がん細胞のみに吸着する薬剤を注入するPET検査と、X線によって体の断面撮影を行なうCT検査を組み合わせたもので、全身のがんを一度の検査で調べられるのが特長ですが、放射性薬剤を体内に入れるため、被曝量が胸部X線の20倍から30倍以上になります。明らかに大きながんが疑われ、すぐに手術をしないと命が助からないような人は受けるメリットがありますが、健康な人が、がん検診などで毎年受けることは避けるべきです」(岡田医師)
ナビタスクリニック川崎の谷本哲也医師は検査の効果そのものにも懐疑的だ。
「放射性成分を含んだ糖に似た薬を注射し、がんが糖を取り込む性質を利用する検査方法ですが、もともと薬が集まる性質がある脳や腎臓などのがんは発見しづらいといった欠点も無視できません。
本来は、がん患者での治療効果を調べたり再発を早期に特定したりするための検査で、保険適用も限られている。一般の方の健康チェックを目的に自費診療で広く提供されているのは、医療機関側の商業的な側面が強いと考えられます」
自費でのPET-CT検査は10万円前後の費用がかかるというデメリットもある。