凄惨な事件や事故が発生し社会問題として取り沙汰されると、防ぐための手立てとして、新しく規制が追加されることがある。しかし、規制対象が生活必需品の一部である場合、実際には防犯に役立つのかと疑念を抱かれながら運用されることになる。俳人で著作家の日野百草氏が、放火事件によって注目を集めるガソリン販売の現場で、実態を聞いた。
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「販売記録はつけてますけど、手間といえば手間ですね」
関東東部のガソリンスタンド、サービス点検を待つ間のベテランスタッフとの何気ない会話。自然、大阪で25人が死亡したクリニック放火事件に話が及ぶ。犯行にガソリンが使われたからだ。
「警察には協力してますけど、馴染みの客の中には『犯人扱いかよ』って納得しない人もいます」
ここは昔ながらのフルサービスのスタンド、セルフはガソリンの直接給油しか法的に認められていないため(現実はあくまで『建前』だが)本稿では除外する。またガソリンスタンド業界などの専門用語はできる限り平易に置き換えている。
「(直接給油以外の)ガソリン購入で書いてもらうのは名前と住所、使用目的ですね、こちらで書くのは販売日と販売数量、本人確認方法ですね」
実際の書類を見せてもらう。チェックシートのようなもので氏名、住所から本人確認の方法、使用目的、そして販売数量である。どこの店もだいたい同じような内容だという。
「まあ免許証を見せてもらえば売ります。馴染みなら最初だけで見ません」
馴染みとは会員(継続顧客)のこと、ここは少し田舎なので古くからの顔見知り客も多い、そもそもガソリンを携行缶で買う人など限られるという。
「やっぱり農家ですね。あとは自動車とかバイクのお店やってる業者はもちろん、何台も持ってるような個人のマニアとか」
これに雪の積もる地域だと除雪機用が加わる。僻地では携行缶を常備している家もある。
生活で使う人たちもいる。売らないわけにもいかない
「珍しいお客さんだとテキヤ(露店商)の人ですね。さすがに最近は見ませんけど、昔はうちのお客さんにもいましたよ」