こういう言い方をすれば反発を買うだろうが、時代の流れによって、消える業界もあれば、新たに誕生する業界もあるということだ。この動きをビジネスチャンスと見なければ、日本企業は、「ラッダイト運動」で暴動を起こした英国の職人と同じようになってしまうかもしれない。
衰退産業に携わる者が必ず抵抗勢力となって、勃興する産業の行く手を阻むのが世の常であり、とくに「失われた30年」の日本においては、「規制」という大義名分の下、既得権を守り、新興勢力の頭を叩いたため、米国におけるGAFAのような新しい産業が生まれてこなかった。
自工会会長としての豊田氏の発言は、“抵抗勢力の頭目”の振る舞いとしては正しいだろう。しかし、世間は、いや、世界は、自工会会長としての発言と、トヨタ社長としての発言を区別はしてくれない。
2035年にヨーロッパでは事実上ガソリン車などの新車販売が禁止される情勢下、主要海外メディアは「トヨタはEVに後ろ向き」と論じ始め、環境保護団体グリーンピースは、大手自動車会社の中でトヨタを気候変動対策では最下位に格付けた。豊田氏のCO2を吐き出すエンジン車を死守するという姿勢が、今やトヨタを環境後進企業と位置付ける事態に発展させたのである。
「550万人の雇用を守る」と、自工会会長として旗をふっていたら、その発言がブーメランとなってトヨタ社長の自分のところに帰って来たのだ。
「これから造るEVには興味がある」
ESG投資などを重く見る機関投資家らが騒ぎ始める気配を察知したのか、さすがに危機感が募ってきたのだろう。ここで救世主を演じる「二枚舌作戦」は打ち止めにしなければ、トヨタの企業イメージ、ブランドは傷つき取り返しのつかないことになると悟ったのかもしれない。
1997年、トヨタ社長だった奥田碩社長は、赤字を垂れ流しながらもハイブリッド車「プリウス」を世界に先駆け市場に投入、環境問題に敏感な米カリフォルニアから「環境はトヨタ」とのイメージを発信して世界に植え付けた。ハリウッドの名立たる俳優がこぞって愛車にした「プリウス」は、エコカーの代名詞となって、トヨタの屋台骨を支える商品となった。
言葉は悪いが「環境がカネになる」ことを最初に具現化した企業でありながら、豊田氏のスタンドプレイが過去の遺産を食いつぶしてしまったのだ。
くだんの記者会見で、豊田氏の内心が透けて見えるようなやり取りがあった。「豊田社長はEVが好きなのか、嫌いなのか」と聞かれるとこう答えたのだ。
「素晴らしい質問ですね。あえて言うなら今までのトヨタのEVには興味がなかった。これから造るEVには興味がある」
トヨタ社長・豊田氏のEV宣言。トヨタディーラーでの大規模な不正車検、パワハラ問題、あるいは、日本製鉄に訴えられた電磁鋼板の特許侵害を巡る紛争など、このところ不祥事続きだった暗いニュースを吹き飛ばしてしまったほど衝撃的だったのは間違いない。