2021年のプロ野球は、「新世代の台頭」が目立つシーズンでもあった。
高校時代から世代ナンバーワンと見られていた選手の期待通りの成長もあれば、同世代のなかでの評価を“逆転”させて飛躍を遂げた選手もいる。ノンフィクションライター・柳川悠二氏がレポートする。
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今季、オリックスで大車輪の活躍(13勝4敗)をみせ、パ・リーグの新人王に輝いたのが宮城大弥だ。そしてそのオリックスを破り20年ぶりの日本一となった東京ヤクルトで、9勝4敗という立派な成績を残した奥川恭伸。さらに5月に1軍初登板を果たし、クライマックスシリーズ第1ステージでは初戦のマウンドにも上がった千葉ロッテの佐々木朗希――。
2001年に生まれた三者に共通するのは、それぞれドラフト1位で指名されたこと、そしてU-18侍ジャパンの一員としてW杯を戦った仲間だという点だ。
まだコロナの心配が微塵もなかった2019年9月、彼らの姿は韓国・機張(キジャン)にあった。W杯の決勝進出に向けて大一番となる韓国戦に向かうバスの中で、ヘッドコーチを務めていた仲井宗基氏(八戸学院光星監督)は、高らかに先発投手を告げた。
「日本の宝! 佐々木朗希!!」
その一言に、バスの中は大いに沸いた。佐々木はこの大一番が侍戦士として初めての公式戦登板だった。
だが、佐々木は初回に19球を投げただけで右手の人差し指にできたマメがつぶれ、ユニフォームに血をにじませながら、失意の降板となった。韓国戦に敗れた日本は、悲願の世界一どころか三位決定戦にも進出できず韓国を後にする。
同年の春に163キロを記録し、日本中の注目を集めた“令和の怪物”は、岩手大会でも“投げない怪物”だった。中学時代の仲間と共に進んだ大船渡は決勝まで勝ち上がるも、準決勝からの連投となる佐々木の肉体と将来を第一に考えた同校の國保陽平監督の決断によって登板を回避。打者としても出場はせず、敗戦をベンチで見届けた。
高校生としては前人未踏だったMAX163キロの剛速球は諸刃の剣であり、成長段階にある身体への負担、代償といったものは誰も計り知れない。「日本の宝」の将来を案じた大人たちは、怪物を登板させないことで佐々木を故障から守り、佐々木はプロの世界に進むことができたのである。