変異を繰り返す新型コロナウイルスとの戦いに終わりが見えないまま、2021年が終わろうとしている。歴史作家の島崎晋氏が、今年判明した人類学上の新発見から、特に目を引く「謎の人類」に関するニュースをまとめて解説する。
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世界中が新型コロナへの対応に追われた2021年でも、調査研究の世界に休業はなく、人類学の成果も熱かった。なかでも目立ったのが、「未知の人類の可能性がある化石の発見」と「ネアンデルタール人に関する新説の数々」だった。
イスラエルで「未知の人類」化石発見
2021年6月、「未知の人類」の骨がイスラエルで見つかったとのニュースが『ナショナルジオグラフィック日本版』などで配信された。元ネタは学術誌『サイエンス』に発表された論文で、執筆したのはイスラエルの研究チーム。彼らの調査対象であるテルアビブ郊外のラムラ付近で人骨化石と石器が発見された。この化石は発見場所にちなんで、「ネシェール・ラムラ・ホモ」と命名された。
注目された理由は2つある。1つは、形態的な特徴が古代型ヒト属ともネアンデルタール人とも共通しながら、ホモ・サピエンスが主役のはずの12万~14万年前のものであったこと。もう1つは、同じ場所で発見された石器が、ホモ・サピエンス(現生人類)でなければ作りえない高度な作りであったことである。
論文の筆頭著者であるテルアビブ大学の人類学者イスラエル・ハーシュコビッツ氏は、「2つのヒト属集団がレバント地方(地中海東部沿岸地方)で約10万年にわたって共存し、知識と遺伝子を交換していた」ことをもって「驚くべき発見です」と語っている。
今回の研究には参加していないが、独マックス・プランク人類史科学研究所の古人類学者マイケル・ペトラグリア氏も、今回の発見が「人類の進化を1本の線として単純に描くことはもはやできず、多くの拡大、縮小、絶滅があった」という新しい見方を裏付けていることに同意している。まだ仮説の域を出ないが、少なくとも人類の進化の道筋が単純なものでなかったことは間違いない。