「オミクロン株」によるパンデミックが世界を覆いつつある。予断が許されない状況が続くなか、いよいよ2021年も終わりが見えてきた。歴史作家の島崎晋氏が、今年判明した世界史上の新発見から、今日特に注目が集まる健康分野の3つを厳選して解説する。
* * *
2021年は洋の東西を問わず、古代史にまつわる遺跡や遺物の発見などが多かったが、世界史の重大ニュースとしては、比較的誰にも身近な「食と健康」に関するものから3つを取り上げる。
「チーズで乾杯」世界最古の証拠発見
まず、「二千年前からチーズで乾杯 ヒトの排泄物から証拠発見」(『時事通信ニュース』10月14日付)というニュースに注目したい。
イタリアの微生物学者らが、オーストリア中北部、アルプスの山々に囲まれた湖畔に位置する町ハルシュタットの岩塩坑で見つかった約2700年前のヒトの排泄物を調査したところ、当時の人が“ブルーチーズをつまみにビールを飲んでいた”ことが分かったという。米科学誌『カレント・バイオロジー』に論文が掲載された。
分析の結果、発見されたのは青カビや酵母で、青カビは熟成チーズ、酵母はビールの痕跡と特定された。世界のチーズの歴史はさらに数千年さかのぼるが、欧州での熟成チーズに関しては今回の発見が最古の例、最古の証拠となる。
ビールの歴史もチーズと同じくらい古いが、欧州におけるビールの消費を裏付ける分子レベルの証拠が発見されたのは今回が初めて。調査に当たった研究者たちも、発酵技術が2000年以上前から進んでいたことを「予想外」と驚きをもって受け止めている。発酵技術の発見が偶然の産物か、試行錯誤の結果は不明ながら、それが継承されたことは、人類の食に対する探求心を示すものと言える。