約300年前の噴火では、江戸の町に16日間にわたって火山灰が降り続けた(写真/共同通信社)
地鳴りのようなごう音とともに、灰色の噴煙が勢いよく立ち昇っていく。700℃以上の火砕流が、時速100kmの速さで山肌を流れ落ちる。そして真っ赤な溶岩流が、山麓の街をゆっくりとのみ込んでいった──。
富士山は過去、50〜100年間隔で噴火を繰り返してきた。最後に噴火したのは、江戸時代の1707年。それから300年以上の沈黙は「いつ噴火してもおかしくない状態」にあることを意味している。そんななか、12月3日、山梨県東部・富士五湖を震源とするマグニチュード4.8の地震が発生。SNSには富士山の噴火を危惧する書き込みがあふれた。
2021年3月、富士山火山防災対策協議会が作成した「富士山ハザードマップ」が17年ぶりに改定。主な修正点は、マグマ(噴出する溶岩)の量が2倍になり、噴出地点も44か所から252か所に増加。溶岩流が到達する地域も、静岡県と山梨県の2県15市町村とされていたが、神奈川県を含む3県27市町村に拡大された。つまり、被害の想定が以前よりもはるかに甚大になったのだ。
噴火したそのとき、私たちはどう行動すべきなのか。まず発生から1時間は、「命を守る行動」をとらなければならない。噴煙とともに噴出した火山灰は、上空1万mに達し、西風によって噴火の1~2時間後には東京にも到達する。首都圏はパニックに陥るに違いない。
外出先で噴火を知った場合、溶岩流が到達する心配のない地域であれば、急いで帰宅して、家族と合流することが望ましい。可能なら、火山灰の到達が予測されない地域に避難するのが賢明だろう。まずは自宅や勤め先、子供の学校、実家がどのような影響を受ける地域なのか把握することが大切だ。
火山灰が降り始めれば、たちまち交通機関は麻痺する。線路に灰がたった1mmでも積もれば鉄道が止まり、道路に5cm積もれば車も走れない。火山灰が降るまでに、避難場所や自宅に到着したい。もし間に合わなければ、火山灰が降る中を歩いて帰宅、あるいは避難場所に移動することになる。防災システム研究所所長の山村武彦さんは、火山灰の中での移動について指摘する。
「火山灰は見た目はサラサラしていますが、マグマが微粒子になった“細かいガラス”です。少しでも目に入れば角膜が傷つき、場合によっては失明する危険性もあります。コンタクトレンズの人はすぐにメガネに替えましょう。スキー用のゴーグルなどをかけ、マスクをつけて移動してください。髪に火山灰がつくと落とすのが大変なうえ、目や耳、鼻に入りやすくなる。ヘルメットが好ましいですが、なければ帽子をかぶる。傘を差すことも有効です」