ネットの発達によって社会とメディアの関係も歪みつつある。評論家・呉智英氏、ネットニュース編集者の中川淳一郎氏、文筆家・古谷経衡氏が語った。【全3回の第2回】
古谷:一部の有名人や公人に近い存在に批判が集中する背景には、メディアが一般人への批判を避けているという事情もあります。そうなった転換点は、1994年の松本サリン事件だったと思います。
中川:事件と無関係な人が犯人扱いされたからね。バラエティ番組で大物女性タレントが「この人、絶対に犯人や」って叫んでいたのを覚えています。あれは酷かった。
古谷:その反省からメディアは一般人を叩けなくなり、慎重に批判のターゲットを見定めるようになった。その分、小室圭さんのような一般人から公人に近くなった存在が狙われるわけです。
中川:叩いていい存在になったんですね。貴乃花の息子で靴職人の花田優一が猛烈に叩かれていたのと同じ。有名人の配偶者や子供というだけで。
呉:新聞社の記者はプロなので、抑制して記事を書いていますが、ネットでは個人があやふやな内容を感情的に書いて拍車をかける。
古谷:昔、“画伯事件”というネット事件がありました。香川で起きた殺人事件で、娘と祖母を殺された男性が有名な画伯に似ていたため、ネットでは“画伯”と呼んで犯人扱いして盛り上がった。真犯人は別だったのですが。
中川:真犯人がわかったら、「画伯、ごめん」と書き込んで終わり。それですむわけないだろっ!
呉:とことん無責任だね。
中川:ネットニュースに載る記事自体は批判的ではなくても、そこにぶら下がるコメントが酷いんです。好き放題に書かれる。
古谷:だけど、積極的にネットに書き込む人って300万人くらいとされていて、日本の人口に占めるのは3%くらいなんです。ほとんどの人はただ見ているだけだから、本当はあんなもの気にする必要はない。
中川:そうそう。立憲民主党は、このネットの罠にはまっていた。先の衆院選で公約に掲げていたのが、「LGBTQ平等法」に「選択的夫婦別姓」、スリランカ人が死亡して問題になった「入管制度」などで、国民全体からするとあまり関わりのないテーマばかり。それで選挙に勝てるわけがない。
古谷:ネットリベラルが好んで書き込むテーマで、ネットばかり見ていると、国民全体が興味をもっていると勘違いするんです。実際に世論調査で選挙のテーマとして1位になるのは、だいたい景気・経済対策なんですよね。
中川:ネットの見すぎで完全に世間からずれた。