新年も、プロ格闘家でYouTuberの朝倉未来(29)の勢いが止まらない。昨年の大晦日に放送された格闘技イベントRIZIN33大会(さいたまスーパーアリーナ)で見せた激闘の余韻は、1週間以上が過ぎた今も残っているようだ。映像業界出身で格闘技にも造詣の深い小説家の榎本憲男氏が、朝倉未来の2022年を独自の視点で占う。
* * *
大晦日のRIZINで勝利した朝倉未来の人気はすさまじかった。本来はコロナ対策のため、声援を送るのは禁止、拍手でのみの応援となっていた会場は、すさまじくヒートアップし、気づいたときには大声援に包まれていた。
リングインする朝倉未来を紹介する際に実況は、「物語」というワードをさかんに使った。僕もすこし前に朝倉未来について書いたコラムで「物語」を多用した。ただ、実況で使われた「物語」と、僕が用いたそれとはすこし意味合いがちがうようだ。そのことを説明するために、大晦日大会の前(2021年11月)に行われたAbemaTVの企画「朝倉未来にストリートファイトで勝ったら1000万円」を振り返ろう。
この企画は、プロ格闘家(朝青龍、亀田興毅、那須川天心など)に、腕に覚えのある猛者らが挑戦し、敗れて涙を飲む(あるいは、えへへと頭をかく)という体裁をとってきた。印象づけられるのは、受けて立つ格闘家の強さである。ただ、今回はすこし趣きがちがっていた。闘技場を、土俵やリングではなく、ストリートに移し(実際はセット)、喧嘩というスタイルを模したのである。これは朝倉未来という格闘家が、かつては喧嘩に明け暮れていたこと、いまなお“路上の伝説”という看板を掲げていることに関連している。
「朝倉未来にストリートファイトで勝ったら1000万円」で企画側が売り物にしたのは、ストリートファイトの“ヤバさ”である。格闘技は危険なスポーツではあるが、一応ルールに守られている。しかし路上の喧嘩はちがう。さらに“ヤバさ”は朝倉未来というキャラとよく似合う。この両者をシンクロさせて増幅し企画を盛り上げようという魂胆が企画側にあったのはまちがいない。
しかし、番組終了後、この“ヤバさ”に批判が殺到することになった。要するに「危険だろ」というものである。批判にはもうひとつ「戦う相手として強い者を選んでいない」というのもあった。こちらは要するに「ヤバいと宣伝しているのにヤバくない」という憤りである。つまりふたつのクレームは出発点が正反対なのだ。ただし、後者は字数の関係で横に置き、「ヤバい(危険)だろ」という批判を検討したい。