近年、旅行業界で注目を集めているのが体験型の旅。農家に泊まって農作業をしたり、漁師の営む宿に泊まって、魚とり体験をしたりといったスタイルの旅を楽しむ人が増えている。
新潟県上越市にある農家民宿『うしだ屋』を経営するのは、牛田光則さんと妻の詩歩さん、まだ30代の若い夫婦だ。農業を志していた詩歩さんと、自分の宿を持ちたかった光則さん、2人の夢が1つになった。
「2人とも関東出身で、上越市には農業研修で訪れました。山間の暮らしに惹かれ、米農家として就農し、2017年から農家民宿を始めたんです。雪深い土地の人はたくましく、自給自足で暮らすための知恵をたくさん持っている。地元のおばあちゃんたちに教わりながら、宿ではみそ作りやわら細工体験なども行っています」(光則さん)
牛田さん夫妻は1haの田んぼで、無農薬のアイガモ農法を用いてコシヒカリを育てている。
「アイガモは害虫や雑草を食べてくれ、私たちにとって欠かせない存在です。1年で役目を終えるので、最後はおいしくいただく。食を通じて、命の循環にも触れてもらえたら」(詩歩さん)
新潟県の山間部は美しい棚田とブナ林が有名。希望者には無料で光則さんが散策ガイドをしてくれる。
「稲刈り後に棚田に水を張ります。冬は雪が3~4mも積もるのですが、これは春に雪の恵みを無駄にしない農家の知恵なんです。珍しい光景ですよね。棚田で朝日を見る『星峠Sunriseツアー』もやっています」(光則さん)
冬はスノーシューで雪原を歩く体験もできる。食事は詩歩さんが愛情込めて手作り。
「無農薬のアイガモ農法で育てたコシヒカリを土鍋で炊き上げ、アイガモは鴨鍋に。脂がのってスープもおいしいです。保存食は地元のお母さんたちに教えてもらいました」(詩歩さん)。