1月9日に初日を迎えた大相撲初場所。今年の角界では、“勢力図”を塗り替える動きが加速しそうだ。きっかけは、昨年、日本大学理事長だった田中英寿被告が所得税法違反の容疑で逮捕・起訴されたことだ。田中被告は長年、強豪・日大相撲部の監督を務め、日大OB力士を数多く輩出したことから、角界に隠然たる影響力を持っていた。それが近年は反社会的勢力との交際を報じられるなどして風向きが変わり、今回の事件化により、いよいよ角界における“日大閥”が瓦解していく可能性が指摘されているのだ。
近年、日大相撲部を出て角界に入る力士は、目に見えて数を減らしていた。初場所の十両以上の関取の数では日大出身者が10人を数え、それに次ぐのは近畿大出身の6人(中退含む)なので他大学を圧倒している。日大OB力士には遠藤(2013年卒)、石浦(2012年卒)といった人気力士もいるが、2014年に田中被告が『週刊文春』で暴力団幹部と一緒の写真が報じられるよりも前に初土俵を踏んでいる力士ばかり。
昨年、角界入りした学生力士を見渡しても、日体大からは2020年に学生横綱のタイトルを手にした欧勝馬ら3人の新弟子がいるのに対し、日大からは大学職員から改めて力士を志した日翔志(追手風部屋)だけ。今年の初場所の新弟子検査では日大から岩切隆晏が追手風部屋に入門したが、最近は師匠が日大OBの追手風部屋(元前頭・大翔山)と木瀬部屋(元前頭・肥後ノ海)に入門先が偏る傾向が顕著になっていた。
「1980年代から1990年代にかけて日大相撲部がアマチュア相撲のタイトルを総なめしていた時代がある。当時の監督が田中氏だった。田中監督の野望は“全相撲部屋に日大の卒業生を送り込むこと”だった。力士を1人送り込むと支度金として500万円が手に入るなんて噂まであったが、田中氏が志向したのはどちらかといえばカネより名誉。“相撲協会の興行は日大OBなくして成り立たない”という状況を目指していた。より多くの学生が幕下付け出しの条件を取得できるように、アマ横綱や学生横綱のタイトルを何人かに配分しているのではないかと叩かれたこともある。
正月には関取衆が日大相撲部の稽古場に集まって田中監督に挨拶するのが慣例となっており、そうそうたるメンバーが集まっていた。監督夫人もちゃんこ屋を経営し、“おかみさん”と呼ばれていた。そこらの親方よりよっぽど偉いという気でいたんじゃないでしょうか」(日大相撲部関係者)
日大出身者が十両に昇進すると、日大の校章が金刺繍された化粧まわしと明け荷が贈られることになっており、土俵入りで日大の化粧まわしがズラリと並んだ。若手親方が語る。
「田中監督に睨まれると角界でも生きづらくなるという。白鵬(現・間垣親方)の初の内弟子となった大喜鵬は、学生時代に19のタイトルを獲得して(元大関で日大OBの)琴光喜を上回る実力があるといわれたが、田中監督による入門先の部屋の指示を拒否して白鵬の内弟子になったために、日大相撲部のOB会からも事実上の除名扱いになったという。遠藤が田中夫妻の勧める縁談を拒否して別の女性と結婚したことで逆鱗に触れたという話もある。境川親方(元小結・両国)も日大OBでありながら、過去にトラブルがあったために卒業生の入門先に選ばれていないのだという」