輸入食材の安全性に気を使う人は多いだろうが、あまり注目されていないのが「豚肉」だ。アメリカ産の豚肉は、牛肉に比べると、精肉として直接スーパーに並ぶことは少なく、加工用に振り分けられていることが多い。そして、そのアメリカ産の豚肉では、日本向けの豚肉の成長促進剤としてラクトパミンを使っていることがあるのだ。ラクトパミンは台湾において、「痩肉精」と呼ばれ問題視されている。家畜の体重を増加させたり、赤身肉の割合を増やすなどの効果があり、豚では北米や南米、アジアなどの26か国・地域で使用が認められている。しかし、心臓の神経伝達に影響を及ぼす物質であるともいわれている。
また、アメリカでは、多くの家畜が感染症の治療だけではなく、予防のため抗生物質が投与されているようだ。これもラクトパミンと並ぶ大きな食の問題となっている。米ボストン在住の内科医・大西睦子さんが解説する。
「大規模な農場では、家畜を狭い場所に密集させるので感染症対策のため少量の抗生物質を毎日投与されていることがあります。抗生物質は成長を促進する特徴もあって少量のエサで早く目標体重に達する。健康維持よりも経営的なメリットのために使われるのです。そして、この食用豚に対する抗生物質の濫用が、人間の体にも影響を及ぼしている可能性は否定できないのです」(大西さん)
抗生物質漬けの肉を体内に摂取し続けることにより、本来、抗生物質の攻撃を受けて死滅していた細菌が変化し、一切反応しなくなる最強の細菌「スーパーバグ」を生む可能性があるという。
「その結果、以前は簡単に治癒した感染症が生命を脅かすほど深刻になるのです。それなのに、農場が使用する薬の量を政府に開示する必要がなく、行政チェックも禁じられているため、歯止めがきかない状況になっています」(大西さん)
それでもスーパーバグの報告などにより、アメリカでは抗生物質の使用を減らす動きがみられる州もある。が、それらの肉は日本にまで届かないことがほとんどだ。食肉問題に詳しい東京大学大学院農学生命科学研究科教授の鈴木宣弘さんがいう。
「アメリカでも成長ホルモンや抗生物質を使わないと謳うハンバーガー店や、スーパーのオーガニックコーナーが人気です。その一方で、日本は薬漬けの肉を受け入れる数少ない先進国。自国民向けにはホルモンフリー肉を作る一方、危ないものは日本向けに輸出されかねないのが実情です。日本は“危険食品のラストリゾート”と揶揄されることもあります」(鈴木さん)
アメリカ以外の国でも肉の輸出先によってホルモンフリーかどうかを使い分けるところがあると鈴木さんが続ける。
「たとえばオーストラリア。自国向けにはホルモン剤不使用で育てますが、日本向けにはアメリカとの価格競争もあり、ホルモン剤が使用されています」