稀代の名料理人が“最後の晩餐”として選んだのはどんな食べ物のだったのか? 料理人の神田川俊郎さん(享年81)は、大阪・北新地の新日本料理店『神田川』店主として腕を振るうかたわら、テレビ番組『料理の鉄人』では華麗な腕前と気さくな人柄で注目を集めた。2021年4月、自宅の浴室で転倒した際の検査で新型コロナウイルス陽性が判明し、1週間後に容態が急変し永眠した。(※文中は敬称略)
家族と食べる好物に満面の笑みで舌鼓
おいしいものをしっかり食べないと、人間は幸せな気持ちになれない──神田川は日頃、家族や店の従業員にそう言い聞かせていたという。2021年4月4日夕刻、神田川は娘の大竹可江さんとともに、大阪でイベントの仕事を終えた。
「折角なので、弟家族も呼んで食事に行くことにしました。父はお寿司が大好きなので、弟の子供たちも連れて行くならと、北新地の『すしざんまい』を選びました」(可江さん)
神田川のその日のお気に入りは、活あじの刺身。にこやかに「お前たちも食べてみ?」とすすめ、「ほんまや、おいしい」と皆で笑い合った。それから追加で何皿も頼んだという。
4月16日、自宅の浴室で足を滑らせて転倒し、搬送された病院で新型コロナウイルスに感染していることが判明。入院中、可江さんとの電話では元気な様子だったが、退院予定日の直前に容態が急変し、そのまま帰らぬ人となった。
「感染対策で面会できなかったので、あじの刺身を食べたときの笑顔が記憶に焼き付いています。普段は別々に生活している3世代がたまたま集まったあの日、一緒に食事ができて本当によかったです」(可江さん)