誰からも愛されながらこの世を去った著名人は、人生の幕引きの時にどんな料理を食べたのか? 小説『氷点』で知られる作家の三浦綾子さん(享年77)は、24才で肺結核を患う。13年間の闘病生活の間にキリスト教の洗礼を受け、三浦光世と結婚。1964年朝日新聞社1000万円懸賞小説に『氷点』が入選し、作家生活が始まった。1998年に「三浦綾子記念文学館」が開館するも、1999年に多臓器不全で逝去した。そんな彼女が愛したメニューとは。(※文中は敬称略)
晩年も変わらず質素な食事を貫く
綾子の人生は、病との闘いの連続だった。そんな生活を支えたのが夫の光世だった。
「綾子さんと光世さんは本当に素敵なご夫婦。綾子さんがパーキンソン病になり、思うように体が動かなくなってからは、食事の間中ずっと、光世さんが綾子さんの背中をさすっていました」と語るのは、夫婦が40年通い続けた『お座敷居酒屋 大舟』の2代目店主・馬場博文さん。綾子は初代店主・昭さんの時代からこの店を愛し、出版社との打ち合わせや客人をもてなす際には必ず訪れていた。
「注文するのは決まってジンギスカンの唐揚げとなす焼き、わかめ汁。ご自身は質素な食事を好まれていましたが、客人には北海道産の刺身や焼き魚を振る舞っていました」(馬場さん)
晩年は、帯状疱疹、直腸癌、パーキンソン病と次々と病魔が襲った。それでも仕事ができるうちは足しげく店に通い、最後まで同じメニューを食べ続けていたという。亡くなる約1年4か月前の1998年6月には、「三浦綾子記念文学館」が地元の旭川に開館した。いまでも文学館を訪れた後、綾子が愛したこの店に立ち寄る人が絶えない。