寿司、焼き肉、ラーメン……「最後の晩餐は何にしたい?」と聞かれたら──あの作家は最後の晩餐に何を選んだのか? 大阪弁の軽妙洒脱な語り口で描く恋愛小説やエッセイのほか、評伝小説も執筆した田辺聖子さん(享年91)。短編小説『ジョゼと虎と魚たち』が大ヒットし、芥川賞、吉川英治文学賞などの文学賞や、紫綬褒章、文化勲章を受章した彼女は、酒と肴が欠かせなかった。(※文中は敬称略)
どんなに忙しくても一日の〆は酒と肴で
田辺作品にはさまざまな酒が登場するが、中でも頻繁に出てくるのが『老松』。田辺が晩年を過ごした兵庫・伊丹の『伊丹老松酒造』の定番で、これを自身も大変好んだ。
「人気作家として多忙な日々を送っていましたが、夜6時ごろには一旦筆を置き、2時間ほどかけてゆっくり晩酌と夕食を楽しんでいました。その時間をとても大切にしていたようです」
と話すのは、姪の田辺美奈さん。田辺にとって、“おっちゃん”こと夫の川野純夫さんと酒を飲む時間が癒しだった。川野さんが先に天国へ旅立った後も、酒の量こそ減ったものの、晩酌を欠かすことはなかったという。
「伯母は私にとってずっと手の届かないような“オトナ”でした。パーティーの手伝いで私が握ったおにぎりを見て伯母は、『お酒を飲んだ後につまむもんやから、もっと小ぶりでええのよ』と小さな俵型のおにぎりを手際よく握ってくれました。
ごまやちりめん、青じそをあしらったおにぎりは美しく、大人の食べ物という感じがしました。料理上手の伯母は、最後まで飲むこと、食べることを人生の楽しみとして大切にしていました」(美奈さん)