三谷幸喜脚本のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』が好調なスタートを切ったばかりではあるが、NHKはすでに2023年放送の大河ドラマ『どうする家康』の制作を決定し、先月末には脚本家や出演者らが集っての記者会見が行われた。令和の時代に新たな家康像を演じるのは、アイドルグループ嵐の松本潤。今年から来年にかけては、各地で徳川家康にまつわるイベントなどの盛り上がりが予想される。そうしたなか、家康を描いた有名な肖像画にまつわる定説が覆る事態が起きているという。歴史作家の島崎晋氏が解説する。
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徳川家康は江戸幕府の創業者。その家康の肖像画は複数現存するが、記憶に残るという点では、頬杖をしながらしかめっ面をした「徳川家康三方ケ原戦役画像」、俗に「しかみ像」と称されるものが群を抜いているのではなかろうか。
その「しかみ像」について、近年、定説が覆り、静岡県浜松市や愛知県岡崎市の展示施設などでは、従来掲げていた解説を撤去したり、展示の見直しを検討したりするなどの動きが出ているという(『東京新聞TOKYO Web』1月4日付「徳川家康「しかみ像」は慢心の戒めに描かせたのではなかった? 三方ケ原の負け戦とは無関係とする新説」より)。
定説として語られてきた「しかみ像」の由来はこうだ。まだ織田信長も存命な戦国時代末期、家康は重臣たちの反対を押し切り、甲斐の戦国大名、武田信玄みずから率いる大軍に戦いを挑んだ(三方ケ原の戦い)。案の定、大敗北を喫し、命からがら逃げ戻った直後、慢心への戒めとして家康自ら絵師に描かせたのがこの「しかみ像」である──そう語られ、逸話としての面白さも重なり、小説やドラマでも長らく踏襲されてきた。
ところが、2015年8月、尾張徳川家伝来の品々を中心に収蔵する徳川美術館の学芸員(当時)だった原史彦氏(現、名古屋城調査研究センター主査)が徳川美術館で開かれた講演会で「しかみ像」についての従来説を覆す新説を公表した。前掲の東京新聞記事によると、その概要は以下の4点にまとめられる。