昨年末、岸田文雄首相はコロナ禍の影響で消費が落ち込んでいる生乳の大量廃棄を回避するため、「牛乳の消費拡大」を求める異例の呼びかけに踏み切り、話題を呼んだ。牛乳というと、真っ先に思い浮かぶのが「成長や健康にいい」というイメージだ。昭和の時代には、多くの栄養を補えるといった印象が定着し、学校給食でも広く親しまれてきたが、振り返ってその“効果”を疑問視する声もある。
「母親から“背が伸びるから飲みなさい”と言われたけど、全然伸びなかった」(50代男性)
「“骨が強くなる”と言われて中学時代に毎日1リットルの牛乳を飲んでいたが、お腹がいつも緩かった」(40代男性)
「“よく噛んで飲め”と言われていたので牛乳を噛んでいたけれど、意味があったのか、いまだに分からない」(50代男性)
「牛乳は完全栄養食」と位置付けられてきた一方で、昨今は「牛乳を飲むと不健康になる」という話を耳にする機会も出てきた。都内在住の50代男性が語る。
「年末に実家に帰ったら、80代の親に『牛乳を飲むとがんになるから、孫には飲ませるな』と注意されました。コロナで健康に気を遣うようになり、『牛乳不健康説』に感化されたようです」
「骨粗しょう症になる」「がんになるリスクがある」といった牛乳不健康説も出回っている。さらに、3回目のコロナワクチン接種が近づくなかでの岸田首相の消費拡大の呼びかけに対し、「ワクチン接種後に牛乳を飲むと、免疫機能に異常が出る」といった陰謀論めいたインターネット上の書き込みまでみられた。一体、牛乳は体にいいのか、悪いのか。
「ここ15年くらいの間で論争が盛り上がり、繰り返されています」
そう指摘するのは、小田原短期大学食物栄養学科の平井千里准教授。
「近年の論争のきっかけの一つは、2005年頃から度々出版される牛乳有害説を唱える書籍の影響と言えます。それまで体にいいとされてきた牛乳に対して、“牛乳が逆に骨を脆くする”といった論がセンセーショナルに打ち出されるようになった。対する乳製品業界なども黙ってはおらず、多くの異議が唱えられて論争に発展しました」
2015年には、お笑いタレントの松嶋尚美が「牛乳を飲むと体内のカルシウムが尿で排出される」「乳製品を多く摂る欧米人は骨粗しょう症になりやすい」などの説をテレビで語り、炎上する騒ぎもあった。