将棋界の超新星・藤井聡太四冠の快進撃が止まらない。現在、竜王、王位、叡王、棋聖の四冠を保持し、年明けからは渡辺明三冠(名人、棋王、王将)との王将戦もスタート。開幕戦は大熱戦の末に藤井四冠が制した。これで五冠も視野に入ってきた藤井四冠の強さの秘密は何なのか。藤井四冠の研究パートナーの永瀬拓矢王座に聞いた。(前後編の後編。前編はこちら。文中一部敬称略)
自分は「努力型の変異種」
藤井が強いことは、これまでの実績が雄弁に物語っている。よく議論されるのは、それが元来の才能なのか、努力によるものなのか、ということだ。その話を永瀬に振ると「渡辺名人は、才能だと言ってますよね」とすぐに返ってきた。昨秋、本誌・週刊ポストで渡辺にインタビューした際に「才能です」と断言していたのを思い出す。永瀬は小さく「うーん」と唸ってから、口を開いた。
「私は藤井さんが強くなる過程を見てきたので、努力だと思います。もちろん才能もすごいですよ。例えば私が『努力9、才能1』だとしたら、藤井さんは『努力10、才能10』です」
たとえとはいえその差に驚いた私は「それは藤井さん、すごすぎる」と思わず漏らしてしまった。永瀬は言葉を続ける。
「藤井さんは最強です。それでも、自分は努力9をなくすわけにいかない。現実を受け入れて頑張るしかありません」
永瀬は常々「自分には才能がないので努力するしかない」と語っている。子どもの頃から水泳、書道、公文式などいくつかの習い事をしたが、「恐ろしいレベルで何一つできませんでした」。でも将棋だけは才能があった、というのがよくあるパターンだが、そうではない。
「将棋は他のことよりもマシという程度で、決して得意ではありませんでした。他の子より弱くて成長も遅かった」と永瀬は苦笑する。それが本当なら、とんでもない努力を積み重ねてトップまで駆け上がったことになる。そのせいか、永瀬には他の多くの棋士が才能に頼って戦っているように映るようだ。
「ほとんどの棋士が才能型で、自分のような努力型はいません。みんな本当にすごいですよ。もっと頑張ればいいのにという方もいる気がしますけど、頑張れないのも才能なんですよね。変な言い方ですけど」
修業時代には才能への強い憧れがあったという永瀬。同世代で自分より頑張っていないのに同格、もしくは格上の者がいると「羨ましかったし、苦しさもあった。才能とは努力とは何なのか考えざるをえなかった」とポツリと漏らした。昔を思い出したのかもしれない。
「自分は変異種なんです。同じ生き方を100回しても、1回くらいしか成功しないと思う。だからプロになれたのはある意味奇跡的だと思うし、他人には自分の生き方をお勧めしません」