「毎日こんなにたくさんの薬を飲み続けて、大丈夫だろうか」──高齢になり、血圧が、コレステロールが、血糖値が、と何種類もの薬を服用するようになると、誰しもそう感じる。
厚労省が2019年6月にまとめた多剤服用に関する報告書には、〈在宅療養患者では、平均処方薬剤種類数は6.5種類であり、60%が6種類以上であった〉とある。
一方、薬には必ず副作用がある。東京大学病院老年病科の研究(2012年)によれば、6種類以上の薬を処方されている患者は、それ未満の薬しか飲んでいない人に比べて副作用が起きる確率が10~15%上昇するという結果も出ている。
なかでも処方が多いのが降圧剤だ。高血圧患者は約4300万人と推定され、降圧剤を服用している患者は1250万人にも及ぶ。
その高血圧患者の5人に1人が他に服用している薬の副作用によって悪化している──そんな衝撃的な研究論文が、昨年11月に米国医師会発行の医学誌『JAMAインターナル・メディシン』に掲載された。
米ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターのティモシー・アンダーソン氏らの研究グループは、2009年から2018年までの「米国国民健康栄養調査」の登録データから、「医師や医療従事者から高血圧(130/80以上)と言われたことがある」という18歳以上の成人2万7599人(平均年齢46.9歳、50.9%が女性。妊婦を除く)を抽出して、処方薬を聞き出して解析したところ、高血圧患者の18.5%は血圧を上昇させる薬を他に服用していたことが判明したという。
研究グループのメンバーであるジョン・ヴィタレロ医師はこう語る。
「調査対象者のうち、49.2%が投薬治療を受けていて、35.4%は高血圧だが投薬治療を受けていない人でしたが、血圧を上昇させる薬剤の使用は、降圧剤を服用していない人のほうがより顕著に見られました。
また、降圧剤を処方されている場合、より多くの降圧剤が使用されていました。これは、他の薬剤を服用したことで血圧が上がり、それを治療するために医師たちが降圧剤をさらに追加していくという処方の積み重なりが起きていると考えられます。
米国や日本の成人の多くが血圧を適切にコントロールできているとは言い難い状況ですから、日本でも薬剤による血圧上昇は起きていると推測します」
日本でも同じ割合で起きていると仮定した場合、その被害を受けている高血圧患者は795万人に上ることになる。