「総理大臣から犯罪者まで、ですね」。Aと同じ学校に通う生徒が語る。大物政治家の母校であり、優秀な人材を数多く輩出した超エリート校から、世間を騒がす犯罪者が出てしまった。自らを勉強漬けに追い込んだAは、なぜペンの代わりにナイフを握ったのか。
「おれは偏差値73のX高校だぞ!!!」
大学入学共通テストの初日の1月15日、叫び声をあげてから間もなくの午前8時半、Aは試験会場だった東京大学付近で3人を立て続けに包丁で刺し、殺人未遂容疑で逮捕された。Aは17才の高校2年生。警察の調べに対し、「目指している医者になるため東大に入りたかったが、成績が1年前から落ちてきて悩んでおり、自信をなくした」「医者になれないのなら人を殺して罪悪感を背負って切腹しようと考えた」などと語っているというが、Aの周辺環境はどのようなものだったのだろうか。
“外来生”のA
《私は三年間の中学校生活で、行事や部活動、その他色々なことを経験しましたが、やはり「勉強」というものが一番長く経験したものでもあり、自分をときに苦めたものであり、助けてくれたものでもありました》(原文ママ)
将来の夢、修学旅行、部活動、頭に去来するさまざまなものを差し置いて、Aが中学校の卒業文集のタイトルに持ってきたのは「勉強」の2文字だった。
Aは学ぶことそのものの楽しさではなく、他者との比較を常に勉強の重要なことと位置づけた。《順位というものが自分に大きな影響を与えました》という文集の一言から、その思考が垣間見える。《上位に上ぼりつめるにつれ、大きなレベルの差を実感させられました》(原文ママ)と語りながら、そこで心を折らずにライバル意識を強く持って勉学に励む気持ちを大事にしていたという。
自らの学力の高さを誇示するように、偏差値とともにAが犯行現場で叫んだ「X高校」は、勉強に競争原理を求めすぎたAにとってどのような場所だったのであろうか。
「国公立大の医学部を目指している人でX高校を知らない人はいませんよ。なんせ10年以上連続で合格者数全国1位の高校ですからね。Aが志望している東京大学の医学部、いわゆる東大理IIIにも昨年現役合格者が出ています。彼の地元の高校でもあるので、東大医学部志望でX高校に進学するのは自然の流れだったのでしょう」(教育ジャーナリスト)