1987年の騎手デビューから34年間にわたり国内外で活躍した名手・蛯名正義氏が、2022年3月に52歳の新人調教師として再スタートする。蛯名氏による週刊ポスト連載『エビジョー厩舎』から、マンハッタンカフェ、アパパネ、マツリダゴッホなど名馬に教えられた「個性」の活かし方についてお届けする。
* * *
小島太厩舎のマンハッタンカフェではGIを3回も勝たせてもらいました。3000mの菊花賞、2500mの有馬記念、3200mの天皇賞(春)ということで、ステイヤーかと思われるかもしれませんが、2000mでもいい成績を残すことができたと思います。ただ、3歳春は輸送するとすぐに体重が減ってしまう馬だった。弥生賞がマイナス20キロで4着。その次阪神に行ったらマイナス16キロ。このときは11着でした。
それで春を全部休んで北海道に放牧に出し、その後札幌に滞在して競馬を使った。4か月ぶりに札幌で走った時はプラス46キロ(笑)。でも、全然太い感じはしませんでした。2連勝して秋を迎え、折り合いに心配がないということで、じゃあ菊花賞へ行きましょう、と。輸送さえ克服していれば、春のクラシックもいいところまでいっていたと思います。それでも、小島太先生は秋には絶対よくなるからとおっしゃって休ませました。
アパパネに初めて乗ったのは2歳7月の福島。このときは3着で、もうちょっと全体的にパワーアップしてほしいですねと話しました。厩舎の方でも一息入れたらいいんじゃないかと思っていたようで、夏は放牧に出されました。
10月に戻ってきて東京に出てきたときは、もう別馬でした。三冠とれるぞ、とまではいかなかったけれど、未勝利戦で強い勝ち方をして、次の500万(1勝クラス)では、もっと強くなっていて。もしかしたらこの馬相当強いなと思うようになった。阪神ジュベナイルフィリーズを勝った時は、もう順調に行ったら桜花賞勝てるな、と。
僕はアパパネのお母さんのソルティビッドにも乗っていたんです。アメリカ産馬ですごくスピードがあったからアパパネも短距離馬かなと思っていたんですけれど、穏やかな馬だったので長めの距離でデビューしたのがよかった。
三冠を獲って、ヴィクトリアマイルも勝っているけれど、トライアルや前哨戦では負けています。それは、目一杯仕上げてレースに出ると全力で走り切ってしまうから。国枝栄厩舎では本番がピークになるように仕上げていったんです。
国枝厩舎といえばマツリダゴッホで有馬記念を勝たせてもらいました。本当に賢い馬で、こちらが見透かされている感じすらありました。中山競馬場が大好きで、勝手に加速していきます(笑)。オールカマーを3連覇しているように、国枝先生も中山に合わせて使っていました。