『ドカベン』『野球狂の詩』など数々の野球漫画を世に送り出した漫画家・水島新司さんが逝去した(享年82)。自身も大の野球ファンだった水島さんの贔屓球団は、『あぶさん』で描かれた「南海ホークス」。“登場人物”にもなり、付き合いの深かった南海OBが思い出を振り返る。
「グラウンドにしょっちゅう来られていましたが、最初は何者か分かりませんでした。しばらくして漫画家だと分かったが、水島先生はあんな風貌だし(笑)、最初はその程度からのスタートですよ」
そう懐かしむのは、南海一筋で14年間プレーしたリードオフマン・藤原満氏(75)だ。1973年に連載が始まった『あぶさん』は、飲んべえの“代打屋”景浦安武(あぶさん)が南海ホークスに入団するところから始まる。作中では実在の選手が多数登場するが、藤原氏は「親友役」として描かれている。
「連載が始まった時期と私がレギュラーになった時期が重なったからか、景浦とは同い年の同期入団、しかも親友という設定でした」(藤原氏)
水島氏は当時はまだ人気でセ・リーグに劣っていたパ・リーグに光を当てたことでも注目された。
「あの頃のパ・リーグはお荷物とか言われて人気がなかったので感謝しています。南海の本拠地は大阪の下町でしたが、ミナミや西成といった庶民的な空気を含めて描いてもらったのも良かった。水島先生は徹底的に南海を取材していて、球場の看板からベンチ、ロッカーまですべて写真のように再現されていた。そのリアリティがたまらなかったですね」(藤原氏)
南海のエースとして活躍した江本孟紀氏(74)もこう語る。
「漫画を読んでいなかったのですが、僕は一滴も飲めないのに、『飲んべえ』として登場していると周りから聞いたんです。それで水島先生が球場に来られた時に、“僕は飲めないんです”と伝えると、次からは下戸で登場してましたわ(笑)。ただ、それでも世間では僕は大酒飲みだというイメージが今でも定着しているようで、その影響力には恐れ入りますよ」
水島さんは南海選手に様々なサポートをしてきたことでも知られる。日本初のメジャーリーガー・村上雅則氏(77)はこんな経験を明かす。
「取材にいらした水島先生から『スーツの仕立券』をもらったことがあるんです。その時はメジャー時代のことを聞かれて、色々とお話ししました。好奇心旺盛で、つい気を許してしまうような親しみがありました。仕立券はそのお礼でした。ストーリーに役立ったかは分かりませんが、とにかく研究熱心な方でしたね」
※週刊ポスト2022年2月4日号