近年に大ヒットした映画やテレビドラマには、実は重要な役割を果たしているディテールがある。本連載では、それを創ったスタッフの方に製作の裏側をうかがい、彼らの「技」を掘り下げていく(本稿は作品終盤の展開に関して明らかにしている内容が含まれています)。
最初に取り上げるのは、2021年に公開された映画『るろうに剣心 最終章The Beginning』(大友啓史監督)の「血しぶき」。本作のアクション――特にラストの雪の中での決闘における血の表現は時代劇史上でも屈指なほどに美しく、「激しさ」ばかりを重視しがちだったそれまでの同シリーズと明らかに一線を画すものがあった。
中でも剣心(佐藤健)が巴(有村架純)を斬った際に巴から舞い上がる血は、悲劇の結末を彩る悲壮美に満ちていた。
人気のシリーズの最後を見事に締めくくっていたこの「血しぶき」を創ったのは、VFXディレクターの白石哲也氏をはじめとするCGチームの手によるものである。
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白石:公開が延期になったことで、「そういう時間はあるなら、もっといろいろやっちゃおう」と、あのシーンを追求する時間もできたんです。
そこでまずこだわったのは、巴から最初に血が出るところです。鮮烈に見せたかったので、「破裂する血」みたいな表現を多めに入れています。
――まず血の出方によって観る側をハッと驚かせるわけですね。
白石:剣心が巴を斬ったという衝撃的なシーンですから、血でもその衝撃を表現したかった。リアリティはもちろん重視していましたが、ここは鮮烈さが大事だと思いまして……。
――たしかに、それによって「取り返しのつかないことになった」という状況がビジュアルとしてハッキリと伝わってきます。
白石:剣心は死ぬ想いでその一撃を繰り出して、その一撃を巴が受け、もう助かる見込みがないほどに血が出てしまった。あの場面は、そこまで持っていかなきゃいけなかったんです。
――そこでハッとさせておいて、今度は静かに死に向かっていきます。空中を血が舞い、雪の上を血が流れる。「これぞ時代劇」というべき美しさでした。
白石:破裂するように飛び出した血が引きの画になった時に細かく散っていくことで、「血の涙」といいますか、そういう見せ方をしたかったんです。ふわーっと儚げに散って、雪の中に染み込んでいく……みたいな。
ここはそもそもの画も綺麗でしたので、この構図を邪魔しないように繊細に血を入れていこうという想いがありました。