だけど悪いことばかりじゃない。コロナ禍で水曜日の17時20分からの上映なのにガラガラ。2割も入っていなかったのはともかくよ、音響のよさが半端ないんだわ。
で、映画『ハウス・オブ・グッチ』ね。なんたって実話に基づいたラグジュアリー・サスペンスと謳うだけあって、これでもかというほど華麗でリアル。それに、グッチで身を包んだレディー・ガガの演技力も見ものよ。知恵も美貌も魅力もある一人の強欲女に、グッチ帝国が崩壊させられていく様が本当に面白かった。
てか、実は私、この映画はもっと個人的なことで興味が湧いたの。映画の背景になっている1990年代初めのグッチにちょっと触れているのよね。後継者が銃殺されたというニュースもリアルタイムで知っているけど、それだけじゃない。飛行機とホテルで10日間15万8000円の貧乏旅行中、映画『ローマの休日』で有名になったスペイン広場のすぐそばのブランド街、コンドッティ通りを歩いていたときにグッチの店の前で足が止まったの。当時の私にとってブランド店は、たとえ冬のバーゲンシーズン中でもウインドーからのぞくのもはばかられる別世界。だけど見たら、店の中に私と似たり寄ったりのカジュアル服の女性が何人も品定めをしているではないの。それでフラリと入ったら、「マダム、ベリー・スペシャル・プライス」と紺のウールジャケットをすすめられ、な、なんとあからさまに値札を見せてるではないの。日本円にして2万円強。聞けばスカートもパンツも同価格で、まさに「持ってけ、泥棒!」価格よ。
そのときに買ったジャケットはいまでも手元にあって、そのシルエットの美しさとグッチのマーク入りの金ボタンの輝きは変わらないけれど、いまにして思えば、グッチ一族の終末期だったのよね。
どんな企業でも、大きな発展をするとき一族だけでは難しい、というのは、先祖代々貧乏人の私にもわかる。だけど、それが殺人事件にまでなって、ネットで調べたら、首謀者の強欲妻はいま刑期を終え、当時の話をあけすけに話しているのよ。
映画の余韻にひたりつつ、ではどうしたらグッチは崩壊を免れたかを、登場人物を思い浮かべながら、寝しなに考えるもよし。
水曜日価格の映画代1200円はかなりお得だったわね。
【プロフィール】
「オバ記者」こと野原広子/1957年、茨城県生まれ。空中ブランコ、富士登山など、体験取材を得意とする。
※女性セブン2022年2月10日号