NHK改革を提唱する前田晃伸会長は2020年5月に『会長特命プロジェクト』チームを設置している。プロジェクトでは放送、サービス、業務の改革に取り組んでいるというが、なかでも前田会長が注力するのが人事改革だ。
昨年11月に会長自ら全職員に送ったメッセージでは、〈今後は、いわゆる「タテのライン」による人事権の行使は一切認めません。(中略)人事異動の最終判断は、NHKグループ全体を俯瞰した視点で、私が適材適所の人事を行います〉と宣言した。「報道局で『政治部』『社会部』『経済部』といった呼称や区切りを廃止し、共通デスク制にする」といった改革プランも取り沙汰されている。
「現時点では『政治部』や『社会部』の解体は食い止められて残ることになりましたが、共通デスク制や部をまたいだ人事交流は進められています。が、NHKは縦割り社会で、政治部と社会部のいがみあいが続いていたため反対の声が上がっています。特に政治部は、『災害報道も泊まりも事件の地取り取材もしない政治部記者が来ても使えない』と目の敵にされていて、報道局の改革は一筋縄ではいかない様子です」(NHK記者)
元NHK番組プロデューサーでジャーナリストの杉江義浩氏が語る。
「これまでに何度もNHKで組織改編はありましたが、組織の形を変えたとしてもNHKの実体は変わらないでしょう。
ただ、前田会長が放送現場の人事に手を入れようとしているなら問題です。理事以上なら、いわば“官僚”のポジションなので、会長による直接の人事も理解できます。現場の人事にまで手を入れて、放送の内容をかき乱すようなことはしてほしくない。NHKは経営委員会を通して、時の政権からの圧力を受けやすい組織。会長がそうした圧力を現場にかけては、政権に忖度した番組しか作れなくなってしまいます」
五輪反対デモ字幕問題
NHK内部でもそうした懸念が加速する出来事があった。昨年12月に放送したNHK・BS1スペシャル『河瀬直美が見つめた東京五輪』で、五輪反対デモの参加者という男性について、金をもらい動員されたとする字幕を裏付けのないままつけた問題で、NHKは1月9日に謝罪した。この不適切字幕問題の代償は大きいという。
「批判の声はやまず、理事らも激怒しており、放送総局長はチェック機能の強化を厳命しています。
だが局内で落胆されているのはBS1が目をつけられてしまったこと。『政権におもねる』ともっぱらのNHKですが、実は反権力的な忖度しない番組を流すならBS1が狙い目という見方が内部ではあったんです。そうした番組の受け皿までなくなってしまっては、今後どんなに組織改革をしたとしても、“NHKが変わった”と認められるのは難しいでしょう」(前出・NHK記者)
“新しいNHK”は、受け入れられるか。
※週刊ポスト2022年2月4日号