「売れたい」「もうこれしかない」と言い切った
2021年には小栗旬さん主演『日本沈没 ─希望のひと─』では日本未来推進会議の一員で外務省職員の相原美鈴役。沈没していく日本を救出して、仲間たちをまとめようとする存在だった。そして今回の『DCU』では、ヒロインの成合隆子役……と繋がっていく。通算7回の出演と着実に認知度を高めた実績には目をみはるものがある。その裏には、彼女が考えたであろう、緻密なブランディング戦略と努力があるようだ。
中村さんといえば、女優としてだけではなく、2018年前後から「女性が憧れる存在」として注目を集めていた。美容・健康面で今や女性にも日常化した筋トレだが、私の主観では火付け役が彼女だったように思う。予約困難となったトレーナー・AYAさんも中村さんのトレーニングを担当したことから、人気は上昇。ムキムキを目指すのでではない、体型キープのための筋トレを認知させてくれた。
もっと言えば、“パーソナルトレーニング”の増加にも一役買っているはず。それまでの「著名人のやる特別で高価なもの」というイメージを覆し、料金も一部では業界が安価にし始めて、一般的に手が出しやすいものになった。もし料金が高くても、それは自己投資だと判断する。だって中村アンみたいになりたいから……。そんな風潮を作ってくれたのだとしたら、後世、日本が健康大国へと進むのを後押しした人、とも言えるかもしれない。前髪をかきあげて逆サイドに長い髪を下ろすヘアスタイルも、小麦色の肌=健康的というイメージも、渦の中心にいたのは中村さんである。
今でも印象に残っているのは、人物ドキュメンタリー『情熱大陸』(MBS・TBS系)に出演した時のことだ(2018年)。女性に大注目の人物が出演となれば、見ないわけにはいかない。そこで彼女が発した「“売れたい”っていう……(女優業が)もうこれしかないって思って[後略]」の一言は今でも鮮明に覚えている。中村さんをみると「あ、売れたいと言った人」と脳が反応してしまうほど強烈だった。
それまで、舞台裏で努力している姿を公開する女優さんはあまり見かけなかった。見るとしても女性ファッション誌の1ページを飾る、ほんの一コマ程度であって、それすらも自分を美しく見せるための材料だった。それとは相反するように、すっぴんのまま、苦しそうな表情でジムで身体を鍛える姿を見せた中村さんはある意味、斬新。これこそが女性層の支持を獲得した理由だろう。
“日9”出演歴もこうして並べてしまうと簡単だけど、その陰では努力をしていたのだろうなあ、としみじみ。このまま記録を更新して、いつか主演として花咲く日を楽しみにしている。溌剌と自分の手足を使って進んでいく女性が増えていくのは、やっぱりとても嬉しいことだから。
【プロフィール】
小林久乃(こばやし・ひさの)/エッセイスト、ライター、編集者、クリエイティブディレクター。これまでに企画、編集、執筆を手がけた単行本は100冊以上。近著に『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ刊)。2022年3月に新刊発売予定。静岡県浜松市出身。