多くの左利きの人のように、両方の手を使い、左右の脳をバランスよく刺激することで、認知症になりにくくなることを示唆する研究結果があると加藤氏は続ける。
「海外の研究では、“右手と左手の両方の握力を鍛えておくと、右手の握力だけが高い人と比べて運動野の周辺が衰えにくくなり、記憶力が上がる”というデータがあります。他にも“握力が落ちると記憶力が低下し、認知症が進む”という報告があり、両手を使うように意識することが認知症の予防につながると私は考えています」
バランスよく鍛えるとよい
左利きと認知症の関係について、他の認知症専門医はどう捉えるのか。鳥取大学医学部教授で、「とっとり方式認知症予防プログラム」を開発し、MCI(軽度認知障害)患者の認知機能の改善に取り組んできた浦上克哉医師に聞いた。
「左利きに関する様々なデータを見ていくと、左利きに認知症が少ないと断定はできないと考えます。たとえば、日本よりも左利きの人の割合が多いと言われるオランダなどのヨーロッパの国々と比べて、認知症の発症率はほとんど変わらない。また、“左利きの人ほど早死にしやすい”という学説が発表されたこともありますが、もしそうなら長生きするほど認知症になるリスクが高まるので、左利きの認知症患者が少ない可能性は考えられます」
端的に「左利き=認知症になりにくい」とする説には慎重な立場だ。
ただし、右利きの人が意識して左手を使うなど、両手を使うことが認知症予防につながることについては浦上氏も同意する。
「講演でお話をする時、『右利きの人は、できるだけ左手を使うように意識してください』と伝えています。
毎日たくさんの神経細胞が死ぬと聞いたことがあると思いますが、反対に日ごろから活用している神経細胞は壊れにくい。使っていない神経細胞から死んでいくので、両手を使うことで左右の脳がどちらも刺激を受け、それを防ぐことができると考えます」
浦上氏が2004年から取り組む認知症予防のための「とっとり方式認知症予防プログラム」では、両手両足を交互に動かす有酸素運動「コグニサイズ」を取り入れている。
「たとえば1~30まで声に出して数字を数えながら片手を前にパー、反対の手を胸の前でグーにした状態で足踏みをして、5の倍数で左右の手を入れ替えるなど、左右の体と頭を同時に使う運動『コグニサイズ』は認知症予防に有効だと考えており、脳へのいい刺激になります」(浦上氏)