かつては望ましくないとされて幼少期に矯正されることが多かった「左利き」の特性にフォーカスし、そのポテンシャルを探った『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社)が12万部を超えるヒットとなっている。
著者である加藤プラチナクリニック院長で脳内科医の加藤俊徳医師は、「僕自身が左利きで苦労した経験があり、それゆえに左利きならではの優れた点を探り、まとめたいと考えました」と語る。
同書は左利きの人の脳について様々な角度から分析。「天才」と言われたり「変人」と見られたりする理由を数多くの関連研究とともに紹介している。そのなかで“左利きが認知症になりにくい可能性”にも言及。加藤氏は、米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー型認知症などの研究に従事した認知症の専門家でもあるのだ。
左利きと認知症にはどのような関係があると考えられるのか。加藤氏はこう解説する。
「歩かなくなったら脚の筋肉が弱っていくのと同様に、脳は40代後半あたりから使わないと老廃物が溜まっていき、その老廃物が溜まり過ぎると認知症のトリガーを引く仕組みだと考えられています。認知症を防ぐには、“使わない脳領域をできるだけ少なくすること”が有効で、左利きの人は日常的にそれを実践できている可能性があるのです」
加藤氏の指摘を掘り下げるために、利き手についての基本的な情報をまず整理しよう。
人が体を動かす時、左半身を動かすには右脳が、右半身を動かすには左脳が指令を出す。利き手を頻繁に使うことで左利きは右脳を、右利きは左脳を刺激して発達させることにつながる。
一方、右脳と左脳では役割が異なり、右脳は「視覚記憶」が得意で、左脳は「言語記憶」「聴覚記憶」を得意とする。右脳は視覚を中心とした五感をフルに使ってイメージや匂いなどを記憶し、左脳では言語や計算を通して、論理的・分析的な思考を行なう。
一方、左利きの人は日常生活で右利き用の道具を使わざるを得ないシチュエーションが少なくないことから、左脳も使う機会が多い。そのため、左利きの人は右利きの人よりバランスよく左右両方の脳を使うことになり、それが記憶力の向上につながっている可能性があるというのだ。加藤氏が続ける。
「たとえば文字を書く時、右利きの人は左脳だけを使っているのに対し、左利きの人は右脳で一旦イメージを思い描き、それを左脳で言葉に変換して処理する流れになります。そのため、左利きの人は言葉を使って考えをまとめるのに時間がかかる傾向がありますが、左右の脳が発達し、記憶の容量も増えると考えられます」