1998年、ED(勃起不全)の治療薬として米国で誕生したバイアグラが、いま再び注目を浴びている。認知症や心臓病などの予防薬として期待できるのではないかと、各国の研究機関が検証を進めているためだ。かつて、世の男性に希望を与えた「青い錠剤」は医療に革命を起こすのか──。
他の治療薬と比べて突出
男性機能を回復するバイアグラとアルツハイマー型認知症。本来は、交わると思えないような2つの領域が重なる衝撃の論文が公表された。
《バイアグラの服用者はアルツハイマー病の発症リスクが69%低い》
昨年12月、こんな研究結果が米科学誌『ネイチャーエイジング』に掲載された。研究を行なったのは、米クリーブランド・クリニックの研究チームだった。
研究チームは、米国の患者723万人の医療費請求データをもとに、ED治療薬バイアグラ(一般名シルデナフィル)の服用と、アルツハイマー病の発症の関係を調べた。
その結果、バイアグラを飲んでいる人は、飲んでいない人と比べて、6年間でアルツハイマー病を発症するリスクが69%少なかったというのである。
他の疾患の治療薬と比べても、バイアグラ服用者における発症リスク減は突出しており、降圧剤「ロサルタン」に比べて55%、虚血性心疾患治療薬「ジルチアゼム」に比べて65%、糖尿病治療薬「メトホルミン」に比べて63%、糖尿病治療薬「グリメピリド」に比べて64%、アルツハイマー病の発症率を減少させた。
今後、研究チームはアルツハイマー病患者への臨床試験などを通じて、さらなる効果検証を重ねる方針だという。
2012年に460万人だった日本国内の認知症患者は超高齢化のなかで増え続け、2025年には700万人に達して、「65歳以上の5人に1人は認知症」になると推計されている。
診断法などで異なるが、アルツハイマー病は認知症の5~7割程度を占めるとされる。同じ話を繰り返すなどの初発症状ののち、徘徊やせん妄が生じて末期には寝たきりになる厄介な病気だ。