政界で注目されているのが昨年12月22日に行なわれた菅義偉・前首相の“忘年会”だ。菅氏をはじめ、二階派最高幹部の林幹雄・前幹事長代理、武田良太・前総務相、旧石原派を継いだ森山裕・総務会長代行、そして石破茂・元幹事長が参加した。いずれも岸田文雄・首相と距離を置く非主流派の有力者たちだ。この会合が菅氏の派閥結成と反岸田勢力結集への根回しだったという見方が強い。
元産経新聞政治部長で政治ジャーナリストの石橋文登氏が語る。
「菅さんという政治家は、大変な力の持ち主だが、今の自民党では非主流派。その菅さんが同じく非主流派の4人の有力者と会合を持ったことは派閥結集を見据えたものだと思います。菅さんが派閥を持てば24~25人と見られており、二階派は44人、森山派は7人、石破グループは12~13人で、合わせると80人を超える。そうなると安倍派に次ぐ党内第2派閥となり、発言力は絶大になる」
菅派の旗揚げが岸田首相を脅かす「反岸田」勢力結集の呼び水になるとの指摘だ。
焦る安倍氏が後押し
そうした菅氏の動きに秋波を送っているのが安倍晋三・元首相だ。菅氏と安倍氏の関係は総裁選での菅降ろしをきっかけに冷え込んだと言われる。だが、実は、2人は昨年12月2日にひそかに会談を持った。安倍・菅両政権を支えた加藤勝信・前官房長官と萩生田光一・経産相が同席した食事会だ。
その翌日、安倍氏は櫻井よしこ氏の言論テレビに生出演し、「私と菅さんの政治家同士、人間同士の絆は強く結ばれている」と前日に食事を伴にしたことを明かした上で、菅派結成について、「(菅氏を支持する無派閥議員のガネーシャの会は)結束力が大変高い。菅さんが派閥を作ろうと思えば簡単に結成できるのではないか」とエールを送った。
岸田首相への対抗心を燃え上がらせた菅氏にとって、心強い言葉だったはずだ。この食事会から菅氏の動きが本格化し、前述の「菅忘年会」へとつながっていく。
もちろん、安倍氏側にも岸田首相を牽制しなければならない動機がある。
岸田首相は施政方針演説(1月17日)の冒頭で「行蔵は我に存す」という勝海舟の言葉を引いたが、これは安倍氏の政敵だった福田康夫・元首相の座右の銘でもある。さらに演説の締めくくりにも「己を改革する」という勝海舟の言葉を使った。岸田首相の地元・広島の県紙「中国新聞」はそこに込められた思いを〈安倍・菅政治からの決別宣言と読めないこともない〉と書いている。