1998年、ED(勃起不全)の治療薬として米国で誕生したバイアグラが、いま再び注目を浴びている。現状で認可されているのはEDと肺動脈性肺高血圧症の治療薬としてのみ。だが近年は世界中でバイアグラの新たな可能性が探求されている。
ここで、バイアグラがEDに効くメカニズムをおさらいしておこう。男性が性的刺激を受けると、脳から神経を介して陰茎に信号が送られる。すると陰茎海綿体の動脈が拡張し、そこに血液が流れ込んで勃起に至る。
だがこの時、「PDE(ホスホジエステラーゼ)5」という酵素が働くと、陰茎を勃起状態から通常の状態に戻す作用が生じてしまう。EDに悩む多くの人は、このPDE5の働きにより血流が低下して、勃起状態を維持できないわけだ。
昨年3月、スウェーデンのカロリンスカ研究所の研究チームは、慢性の虚血性心疾患がある男性がバイアグラなどのPDE5阻害薬を服用していると、死亡や心筋梗塞のリスクが低下する可能性があると発表した。
研究チームは1997年から2013年に心筋梗塞を発症、または治療したのち、ED治療薬であるアルプロスタジルとPDE5阻害薬のいずれかを服用していた約1万8500人を追跡調査した。
その結果、PDE5阻害薬を服用していた群はもう一方と比べ、全死亡リスクが12%低かった。
「さらにPDE5阻害薬群はアルプロスタジル群と比べ、心筋梗塞の発症リスクが19%、心不全の発症リスクが25%、心血管疾患による死亡リスクが17%低かった。しかもPDE5阻害薬の使用頻度が高いほど、全死亡リスクが有意に低下していたのです」(医療経済ジャーナリストの室井一辰氏)
また、チェコのカレル大学などの研究チームは、約96万5000人のビッグデータを用いてPDE5阻害薬と大腸がんの関係を分析。その結果、PDE5阻害薬の使用者は、非使用者と比べ、大腸がんの発症リスクが15%低かった。さらに具体的な頻度は不明だが、PDE5阻害薬の使用を継続すると、大腸がんのリスクが37%低下したという。
「研究チームはこの結果について、PDE5阻害薬が腸管上皮細胞によって構築される粘膜のバリア機能を高めることで、がんの発生を抑止したのではないかと考察しています」(室井氏)