1月30日朝、北朝鮮は内陸の慈江道周辺から中距離弾道ミサイル(IRBM)1発を日本海に向けて発射した。北朝鮮のミサイル実験は1月だけで7回にも及び、異例の頻度である。「平和の祭典」であるべき北京冬季五輪開幕を間近に控えながら、韓国、日本、米国を挑発するかのようなミサイル実験を続ける北朝鮮。いったい何が目的なのか。
朝鮮半島事情に詳しい、元朝日新聞ソウル特派員でジャーナリストの前川惠司氏はこう分析する。
「これは韓国の大統領選を意識した挑発行為でしょう。ミサイル発射で緊張状態を高めることで、韓国社会を混乱させ、韓国の国民に“第二次朝鮮戦争”勃発への恐怖感を潜在的に植え付けて、与党の左派候補を有利にしようという狙いがあると考えられます」
今年3月に実施される韓国大統領選に影響を及ぼそうとする動きだという。韓国大統領選では現在、与党「共に民主党」の李在明候補(前・京畿道知事)と、最大野党「国民の力」の尹錫悦候補(元・検察総長)が激しいトップ争いを繰り広げている。
韓国の世論調査会社リアルメーターの発表によると、昨年12月第3週目まで尹候補が40%を超える支持率でリードしていたが、尹氏の妻の経歴詐称や尹氏の側近と党幹部の対立が問題視され、李候補が逆転。しかし、一方の李候補も、過去に市長を務めた城南市大庄洞の都市開発事業をめぐる不正疑惑や公職選挙法違反、女優との不倫疑惑などさまざまな疑惑が報じられ、今年1月の第2週目には尹氏が再び逆転し、差を広げつつある。
しかし、こうしたなかで北朝鮮がミサイル実験を繰り返せば、むしろ、北朝鮮に対して強硬姿勢をとる野党(保守系)候補を勢いづける結果になりはしないか。
「そうした面もありますが、韓国民からすれば、隣の北朝鮮が核ミサイルをバンバン撃っている恐怖感の方が上回ります。北朝鮮に融和的な与党左派が政権を取ったほうが、(韓国の安全保障には)いいと考える人の方が多くなります。
過去においても北朝鮮はこうした戦術をとっています。韓国民主化後初の1987年の大統領選では大韓航空機爆破事件を起こし、2017年の大統領選でもミサイル実験を繰り返しました。2017年は文在寅・現大統領が当選している。一方1987年は保守派で元軍人の盧泰愚氏が当選したが、これは野党(革新系)から金泳三氏と金大中氏の2人が出馬して(左派の)票が割れたため。金泳三氏と金大中氏の票を足すと盧泰愚氏の得票数を超えており、候補を一本化していれば左派が勝っていた大統領選挙です。だから、2回ともこの戦術は成功したと言えます」(前出・前川氏)