かつては望ましくないとされて幼少期に矯正されることが多かった「左利き」の特性にフォーカスし、そのポテンシャルを探った『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社)が12万部を超えるヒットとなっている。
著者である加藤プラチナクリニック院長で脳内科医の加藤俊徳医師は、「僕自身が左利きで苦労した経験があり、それゆえに左利きならではの優れた点を探り、まとめたいと考えました」と語る。
同書は左利きの人の脳について様々な角度から分析。「天才」と言われたり「変人」と見られたりする理由を数多くの関連研究とともに紹介している。
「自分の職業では、左利きであることの影響は大きい」と語るのは、棋士の鈴木大介九段。一瞬の閃きや記憶力が重要になる将棋の世界で、左利きと右利きでは戦い方が異なるというのだ。
「将棋は、大きく『居飛車』と『振り飛車』に戦法が分かれるのですが、右利きには飛車を最初の配置である右側のままにする『居飛車』が、左利きには飛車を盤面の左側に展開する『振り飛車』が多いと言われます。『居飛車』は一手ずつ積み重ねて読んでいきますが、『振り飛車』は10~20手先を読んで最終的な駒組みをイメージしていく傾向があるという違いがあります。
また、左利きだと左側にある『角』を使いがちになります。右側にある『飛車』と比べると、斜めにしか動けない角にはクセがあります。その角を主体的に使っていくので、駒組みが独創的になりやすい。私の師匠(故・大内延介九段)も左利きですが、右利きの棋士とは考え方が少し変わってくるのかなという印象があります」(鈴木九段)
将棋で重要な記憶力については、自身の体験からこう語る。
「私の将棋のスタイルは、棋士のなかでは“感覚派”だと思うのですが、たとえば対局の盤面を思い出す時、五感のイメージを元に思い出すことが多い。寒かったのか暑かったのか、自分が何を食べたのかといった記憶から辿って盤面が思い出されます。記憶力はいいほうだと思います」(鈴木九段)