2021年に公開された映画『るろうに剣心 最終章 The Beginning』(大友啓史監督)における「血しぶき」の創作秘話を、時代劇研究家の春日太一氏がVFXディレクターの白石哲也氏に聞くシリーズ。
同作の決闘シーンにおける血しぶきは時代劇史上でも屈指の美しさだったが、それは何パターンもの「噴き出る血」の実写素材を撮影し、それを後で各シーンに合成する──という、アナログ的な手法によって作られていた(全3回の第2回。第1回は【映画『るろうに剣心』衝撃の血しぶきシーンはどう作られたか】。本稿は作品の展開に関して明らかにしている内容が含まれています)。
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白石:血を足すということにおいては、ゼロから3DCGで作ることもできます。ただ、実際に斬られて血が出る──その重力とか噴き出し方とかは実際に飛ばしてみて、それにライトを当てて、そのシーンの雰囲気に合うように撮るのが一番クオリティが高いですし、コストもかからないんです。
ゼロからやると、シミュレーションして試行錯誤しているうちに時間がどんどん経ってしまう。それで上手くいけばいいんですが、それでリアルに見えなくなることが一番怖いわけです。大爆発シーンなどはCGでないと難しい場合も多いですが、その時の煙とか火の粉とかは実際に撮ったものを使った方がいい。噴き出す血も同じです。
――たしかに、それらは人間の予想できないランダムな動きをしますからね。
白石:CGで作るとどうしても動きをこちらでコントロールすることになるので、ランダムな動きの綺麗さとかリアルさがなかなか出しにくいんですよね。
──「雪の上を血が流れる」という描写も印象的でしたが、あれも素材を撮ったのでしょうか。
白石:雪の上を血が流れていく場合、単純に壁とか床とかの平面に血を垂らして撮っても「雪に染み込んだ血」という表現ができないと思いました。それで、雪っぽい質感の素材を敷いた上から血を流しています。
――雪の中に染みていくこともあるわけですからね。血の流れも、やはりランダムということになる。
白石:雪には凹凸感があるので、そこを通ることによって血の表情も変わっていきます。その辺のリアリティは求めましたね。何もない平坦なところに血を流しちゃうと、そういう微妙な細かい表現が出なくて。