NHKの連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』で、るいを演じているのは深津絵里(49才)だ。連ドラの仕事をほとんどしていなかった深津にオファーしたのはどうしてだろうか。制作統括の堀之内礼二郎チーフプロデューサーはこう説明する。
「18才という若いときから、3代目ヒロイン・ひなた役の川栄李奈さん(26才)の母親まで演じる。さらに実は老年期まで演じてもらう構想があるので、とにかく演技の幅が広いかたにお願いしようということになり、ぜひとも深津さんに、となりました」
このとき、深津は連ドラ出演から10年以上遠ざかっていた。そこで、堀之内さんは長い手紙をしたためた。2020年のことだ。
「コロナ禍によって分断され、孤独を味わっている人が多いと感じていたんです。その時代に、先人たちの命の積み重ねの上に自分たちがいることをドラマで伝えたい、という思いを手紙に書きました」(堀之内さん・以下同)
思いを形にするために堀之内さんと脚本家の藤本有紀さんがたどり着いたのは、3人のヒロインがバトンをつないで100年を描く、朝ドラ史上初のヒロイン交代制の構想だった。
「深津さんはそこに惹かれてくださったようでして。新しいことへの挑戦に対して『自分が力になれるなら、誠心誠意頑張りたいと思います』とおっしゃっていただきました」
深津が大阪に来て、いざ撮影が始まると堀之内さんはオファーしてよかったと強く確信する。
「毎日のように感謝していました(笑い)。深津さんならでは、という表現ばかりなんです。たとえば、洋服店でジョー(オダギリジョーが演じる錠一郎)に初めて額の傷を見せるシーン(52話)。ジョーに思いを寄せながらも別れを告げようとするるいが印象的でしたが、あそこは“悲劇のヒロイン”になりがちなシーンです。しかし、深津さんは役柄に酔うことなく、明るさとチャーミングさを持ち合わせながらちゃんと伝える。だから悲しいし、いじらしい。本当にすごいなと思ったシーンです」
深津の演技のすごさを堀之内さんが続ける。
「深津さんは検証するんです。役になりきって心情を表現するだけでなく、見ている人にどう伝わるかを突き詰める人。たとえば、るいはちょっと口をとがらせたりするんですよ。役の中に収めるだけなら避けるかもしれない表現も、るいという人間のいじらしさやかわいらしさを表現した方が、見ている人が共感や感情移入してくれるかもしれないと思ったら、そっちを選べる人。役を演じるに留まらない、多角的な視点を持っているすごい女優さんだと思いました」
るいの天性のいじらしさは、深津の計算し尽くした演技プランに支えられていたのだ。その、いじらしさは“食”にも隠されている。